▼平和の使者さん:
ニートの危うさ・労働の危機
社会のなかで「希望」を考える際に、希望を失った層について分析することが不可欠だ。昭和40年代半ばから現れ始めたとされる「ひきこもり」の人たちや、長期間、定職を持たずアルバイトを繰り返すフリーターと呼ばれる人たちのなかにも、「希望を持たない人」が多くいる。
ひきこもりに詳しい大阪大非常勤講師の井出草平氏(29)=社会学=は「ひきこもりの自殺のことを最近、聞くようになった」という。
ひきこもりは、いまや数十万人の規模と概算されている。昭和40年代前半に生まれた「ひきこもり第一世代」が40〜45歳になった。この世代は、あと10年ほどの間に、親を次々と亡くしていく。親の年金でかろうじて生きている人たちは、親が死ぬと同時に生活の資金を失う。
ひきこもりの人たちに「親が死んだらどうする」と質問すると、ほとんどが「自殺する」「そのまま餓死する」とし、「なんとか働く」と答える人はわずかだ。すでにもう自殺者は出始めている。
井出氏は「私たちはこれらの問題に本格的に向き合わなければならない」と訴えている。
「希望は、戦争。」。フリーターの31歳の男性が平成19年、こんなタイトルで雑誌に論文を投稿し、話題になった。
「社会のゆがみは若者に押しつけられ、一生懸命まじめに働いても生活が成り立たない。不平等が固定化されている。戦争が起き、たくさんの人が死ねば日本は流動化する。多くの若者はそれを望んでいるように思う…」。
論文にはそう綴られていた。
夜遅くアルバイトに行って8時間、休憩もろくに取らずに働いても月給は10万円前後。まともな就職先は新卒しか受け付けてくれない。論文には、社会に対する不満が渦巻いていた
東大希望学プロジェクトでも、この論文は衝撃を持って受け止められ、議論になった。「戦争」というのはあまりに短絡的ととらえられたが、メンバーの中には、この論文に理解を示す若い研究者もいた。宇野重規准教授(42)=政治学=はこう語る。
「むちゃくちゃな発想だが、この不満をどこに持っていくんだというときに戦争はある種すっきりすると考えたんでしょうね。裏を返せば、現状を変えたいというエネルギーの表れでもある」
希望は何が源泉となり、何と結び付いているのか。希望をはぐくむ土壌が示せれば、その改良によって光明が見いだせるのではないか。
希望学プロジェクトが、全国アンケートを行った結果、希望の内容と直結するものは、「仕事」が66・3%と突出して多いことが分かった。次いで、「家族」(46・4%)、「健康」(37・7%)、「遊び」(31・7%)の順。
ひきこもりやフリーターが未来を絶望視するのは、希望が仕事と結びついている限り、仕方のないことかもしれない。労働をすればお金が得られたり、人間関係がつくられたりする。仕事で能力が発揮されることで、生きがいや人間性に結び付く傾向は強い。
しかし、プロジェクトの一員である水町勇一郎准教授(42)=労働法学=は「労働にすべての力を注ぎ込む“労働信仰の魔法”にかかっている。労働を安易に希望や人間性と結び付けて語ること、それを原動力として人間や社会を動かそうとすることに危険はないのか」とこの結果に警戒感を示す。
働いて得たお金でおいしいお酒を飲みたいとか、夏休みに海外旅行に行きたいという目的自体が、働くことに没入する中で次第に見失われているのではないか。水町准教授は「日本は過労死や過労自殺など、働くことの弊害が最も深刻な形で現れている。労働に希望を見いだすことは現状を後押しする危険性を持っている」と警告している。
社会のなかで「希望」を考える際に、希望を失った層について分析することが不可欠だ。
昭和40年代半ばから現れ始めたとされる「ひきこもり」の人たちや、長期間、定職を持たずアルバイトを繰り返すフリーターと呼ばれる人たちのなかにも、「希望を持たない人」が多くいる。
ひきこもりに詳しい大阪大非常勤講師の井出草平氏(29)=社会学=は「ひきこもりの自殺のことを最近、聞くようになった」という。
ひきこもりは、いまや数十万人の規模と概算されている。昭和40年代前半に生まれた「ひきこもり第一世代」が40〜45歳になった。この世代は、あと10年ほどの間に、親を次々と亡くしていく。
親の年金でかろうじて生きている人たちは、親が死ぬと同時に生活の資金を失う。
ひきこもりの人たちに「親が死んだらどうする」と質問すると、ほとんどが「自殺する」「そのまま餓死する」とし、「なんとか働く」と答える人はわずかだ。すでにもう自殺者は出始めている。
井出氏は「私たちはこれらの問題に本格的に向き合わなければならない」と訴えている。
「希望は、戦争。」。フリーターの31歳の男性が平成19年、こんなタイトルで雑誌に論文を投稿し、話題になった。
「社会のゆがみは若者に押しつけられ、一生懸命まじめに働いても生活が成り立たない。不平等が固定化されている。
戦争が起き、たくさんの人が死ねば日本は流動化する。多くの若者はそれを望んでいるように思う…」。論文にはそう綴られていた。
夜遅くアルバイトに行って8時間、休憩もろくに取らずに働いても月給は10万円前後。まともな就職先は新卒しか受け付けてくれない。
論文には、社会に対する不満が渦巻いていた
東大希望学プロジェクトでも、この論文は衝撃を持って受け止められ、議論になった。
「戦争」というのはあまりに短絡的ととらえられたが、メンバーの中には、この論文に理解を示す若い研究者もいた。宇野重規准教授(42)=政治学=はこう語る。
「むちゃくちゃな発想だが、この不満をどこに持っていくんだというときに戦争はある種すっきりすると考えたんでしょうね。裏を返せば、現状を変えたいというエネルギーの表れでもある」
希望は何が源泉となり、何と結び付いているのか。希望をはぐくむ土壌が示せれば、その改良によって光明が見いだせるのではないか。
希望学プロジェクトが、全国アンケートを行った結果、希望の内容と直結するものは、「仕事」が66・3%と突出して多いことが分かった。次いで、「家族」(46・4%)、「健康」(37・7%)、「遊び」(31・7%)の順。
ひきこもりやフリーターが未来を絶望視するのは、希望が仕事と結びついている限り、仕方のないことかもしれない。労働をすればお金が得られたり、人間関係がつくられたりする。
仕事で能力が発揮されることで、生きがいや人間性に結び付く傾向は強い。
しかし、プロジェクトの一員である水町勇一郎准教授(42)=労働法学=は「労働にすべての力を注ぎ込む“労働信仰の魔法”にかかっている。労働を安易に希望や人間性と結び付けて語ること、
それを原動力として人間や社会を動かそうとすることに危険はないのか」とこの結果に警戒感を示す。
働いて得たお金でおいしいお酒を飲みたいとか、夏休みに海外旅行に行きたいという目的自体が、働くことに没入する中で次第に見失われているのではないか。水町准教授は「日本は過労死や過労自殺など、働くことの弊害が最も深刻な形で現れている。
労働に希望を見いだすことは現状を後押しする危険性を持っている」と警告している。