何度も書き込みしてごめんなさい。二、三週間ほど前に、「親孝行」というタイトルのツリーに書き込みした文章があったのを思い出しました。この前は読み損ねた人もいるでしょうから、父とのやり取りだけを抜粋して、以下にコピーしておきます。
先日まで実家に帰省していたのですが、父は、24時間テレビに登場したレイザーラモンHG(住谷正樹)を見て笑っていました。俺は、父にはカミングアウトしていません。上京する前の俺なら、諦めてしまっていたでしょう。しかし、俺は、父に向かって、「この男は同性愛者を差別してる。だから、こんなん見たらあかん」と言いました。
「どこが差別なんや」
と父は訊きました。
「例えば、『嫌韓流2』に、韓国では、知的障害者ではない人が舞台に上がって、知的障害者の醜悪な物真似をしてるのは障害者差別やっていうのがあったやろう?この男は異性愛者や。だから、この男がやってるのは同性愛者差別やん。テレビで同性愛者を差別してる日本人に、知的障害者を笑いもんにしてる韓国人を非難する権利なんかないわ」
と俺は言いました。『嫌韓流』は、以前父が買っていた漫画です。
「そういえば、どっかのアナウンサーと結婚したってテレビで言ってたわ。だから、HGは異性愛者ねんろうなあ。でもなあ……」
父はまだ納得がいかないようでした。
「じゃあ、こんなふうに想像してみねま(想像してみなよ)。白人がな、黒いクリームかなんかで、肌を黒く塗って登場したとする。で、その白人が、アフリカかどっかの少数民族がやってることを街中で真似して、それを見た人が笑ってる、という感じのバラエティ番組があったら、どう思う?」
「そんな番組ないやんけ」
「だから、あったとしたら、や」
「そりゃあ……やっぱ人種差別やろうなあ」
「やろ? この男がやってることも同じやん。といっても、ほんもんの同性愛者は絶対にこんなことせんけど」
「でも、テレビでやってることやしなあ」
田舎に住む自営業の人には多いのですが、父は、一日中テレビをつけっ放しにしていて、メディアのやることは絶対に正しいと思い込んでいる人です。そこで、俺は、日本のメディアがいかに信用できないかを説明した後で、こう付け加えました。
「例えばな、お父さん、お腹に癌の手術した跡残ってるやろ? でな、バラエティ番組で、健康なお笑い芸人が、特殊メイクか何かでお腹に手術の跡を作って登場したとする。で、その跡を利用してマジックで顔を書いて、腹踊りとかを始めたとする。で、それを見て、他のお笑い芸人や視聴者が笑ったら嫌やろ? それと一緒やんけ」
「いや、ちゃうやろ」
「何で? どこが違うん? 言ってみねま」
俺が追求すると、父は黙りました。そして、俺はこう付け加えました。
「この男が、セクシュアルマイノリティの団体から訴えられたの知ってる?」
「え、ほんとか?」
「うん。もしもな、同性結婚が認められてるEUの国でこんなことしたら、裁判になって、とっくに有罪判決受けてると思うわ」
これだけ言っても、父はまだ納得しませんでしたが、とりあえず、チャンネルは変えました。
良かった、少しは想いが通じた、と思った次の日です。父は、性懲りもなく、彼が登場するバラエティ番組を見ていました。
「チャンネル変えてもいいけ?」
と俺は言いました。父は驚いた様子でした。
「何でやね」
「(テレビを指差して)こいつが出てるでや」
「そんなにHGが嫌いなんか」
「嫌いとかの問題ちゃう。昨日言ったやろ。この男は同性愛者を差別しとるんや。それを見るってことは、自分ら(俺たち)も同性愛者を差別してることになるんや」
「いやいやいや、いくらなんでもそれはないやろ」
「何でないん? 例えばな、選挙で、女性を差別してる候補者に投票するのは、間接的に女性を差別する行為やろ? スナッフビデオを購入することは、間接的に殺人に加担する行為やろ? その程度の理屈がわからんわけじゃないやろ?」
俺がそう言うと、父は反論できなかったらしく、怒ったようにテレビのスイッチを切り、寝室へ行きました。
……以上です(ちなみに、今も父にはカミングアウトしていませんが、別室で俺と父とのやり取りを聞いていた妹には後でカミングアウトしました)。
何でこんな文章をコピーしたかと言うと、「例えカミングアウトすることができない相手であっても、レイザーラモンHG(住谷正樹)が同性愛者を差別しているという事実を伝えることはできるのではないか」と思ったからです。
俺は、まだカミングアウトしていない大学の友人が「セイ、セイ、セイ」などと言ったときにも、「あの男は同性愛者を差別してる!あの男の真似をすることは、お前も同性愛者を差別するってことなんだ」と強く主張しました。しかし、その友人から、俺が同性愛者なのではないかと疑われたことは、今のところありません。
まあ、時と相手と場合によりけりでしょうから、人によってはゲイなのではないかと疑われることもあるかもしれません。でも、カミングアウトをしなくても、この国やマスコミが同性愛者を差別しているということを伝えることも可能な場合もあるのではないかと思います。