お父さんお母さん
本当は直接会って言いたかったのですがどうしても抵抗があるので文章に残します。
僕は同性愛者なので、この先、女性と結婚するという選択肢を持っていません。このあいだ家に帰ったときに色々と将来のことを話しましたが、お父さんお母さんが描く「幸せ」は、結婚そして出産、家族を作り、子孫を残していくことしかない、というような話だったと思います。僕は結婚もしませんし、子孫も残しません。万が一それができたとしても、果たして相手の女性は幸せでしょうか?「同性愛」や、「性同一性障害」、「ジェンダー」、「LGBT」、この現象を表す用語は様々あります。これを病気と考える人もいれば、病気ではないと考える人もいます。どちらにせよ、これを無理に直すことはできません。お父さんお母さんが自身の性対象を、明日から変えることはできないと思います。それと同じように、僕にもできません。
何度も「通常」になれないか、試みました。お父さんお母さんを、幸せにしたかったからです。でも、できませんでした。ここまで育ててもらっておいて、お父さんお母さんの望む形で恩返しができない自分を責めたり、自暴自棄になって、自分は産まれてこなければ良かったのかもしれない、と思うこともありました。「通常」な人に対しては、羨ましさ、悔しさ、憎しみの感情が芽生えることもありました。子孫を残すことなどくだらない、自分には関係のないことだ、そう思うこともあります。家庭があり子供がいるというだけで優遇されているのを見ると腹が立ちました。最近でこそメディアでも同性愛者の存在が取り上げられるようになりましたが、お父さんお母さんの話を聞いていると、まだまだこの現象に対しては理解されていないのだなと感じました。もしも僕がこのことを打ち明けたら、ひどく悲しまれることが簡単に想像できました。僕は、お父さんとお母さんを、悲しませたくないのです。
このことは一生、死ぬまで打ち明けないと決めました。打ち明けないからには、家族から距離を置かなければなりません。僕は生まれながらに親不孝者なのです。こんな親不孝者は、あなたたちの目の届かないところに居るべきだと思います。お父さんお母さん、僕はあなたたちのことが本当は大好きです。僕にとって、この世に一人ずつしかいないお父さんとお母さん。こんな僕を一生懸命に育ててくれた人。本当は、生まれてこられて嬉しいのです。世の中の色々なものを見ることができ、聴くことができ、触れることができて、本当に嬉しいのです。ありがとう。本当は、あなたたちのことがとても心配です。いつまでも健康でいてほしいし、長生きしてほしいです。お父さんとお母さんには、幸せでいてほしいのです。こんな僕でごめんなさい。お父さんお母さんのそばには居られません。いつまでも、産んでくれた感謝を忘れません。どうかお元気で。