夏休みが始まって間もないときでしたが、山中君から僕の家に電話がかかってきました。(当時通っていた中学校では校内への携帯電話の持ち込みが禁止されていたこともあって、僕も山中君も携帯電話を買ってもらえず、メールやLINEのやりとりはできませんでした。)
山中君は困ったような口調で、相談があるから近くの公園で会って話がしたい、と言いました。めずらしく山中君から話を持ちかけてきたため、僕はすぐに時間の約束をして会うことにしました。
山中君の話はこうでした。
中3になってから例の野球部のメンバーからのけ者にされはじめたため、5月以降山中君は部活を休みがちにしていたそうです。したがって7月の中総体予選には選手として登録されることもないだろうと思っていたのですが、中総体予選は事実上中3生の引退試合ですから、顧問の配慮で試合に出してもらえることになったのです。
ただ練習不足が響いて試合本番ではミスをいくつか重ね、結果として1回戦敗退となってしまいました。
1回戦敗退は山中君だけの責任ではないはずですが、他の野球部のメンバーはこぞって山中君を責め、何人かの生徒は試合後もことあるごとに山中君につらく当たったそうです。極めつけに「お前のせいで負けたんだから慰謝料を払え」というめちゃくちゃな要求をしてきた者がいるとのことでした。
僕は山中君の話を聞いて、すぐに野球部の顧問に報告するように言いました。けれど山中君はそれがいわゆる「チクリ」になることを気にしていました。「顧問にチクった」ということで、いま以上にひどい目に遭いはしないか不安だったのです。