学生ならば誰もが待ち焦がれる夏休み。俺は耀太(Yohta)と出会った。
夏休みを楽しみにしているのは何も学生だけではない。日本で最もブラックだと言われる教師にだって夏休みは必要不可欠なものだ。
とはいっても、学生のように完全の休みになるわけではない。中学教師である俺の場合は、部活動の指導が夏休みの、メインの仕事だ。
耀太に初めてあったのは夏休み初日のことだった。生徒たちが練習を始めてしばらくしてのこと、体育館に響いていたバスケットボールの弾む音がピタリと止み、生徒たちが「おはようございます」と入り口に向かって挨拶をした。
これは特別なことではなく、体育会系の部活ならば当たり前の所作なのだが、普段なら他の部活の先生だったり、保護者だったりが大抵である。
俺も生徒の声につられて入り口を見ると、バスケ部ですと言わんばかりの格好をした、長身の爽やかな青年が立っていた。
「おはようございます。去年この学校を卒業しました、◯◯高校1年の柴田耀太です。これから、夏休み中に何度か練習に参加させて頂いてよろしいでしょうか?」
俺の方に歩いて来た青年は、礼儀正しく話しかけてきた。
「もちろん。俺は今年から赴任してきた岸野だ。コイツらを鍛えてやってくれ。」
初めて会った青年だが、OBで高校生が参加してくれるのに断る理由もなく、二つ返事で答えた。
何よりも生徒たちが「耀太先輩」と嬉しそうに声をかけながら群がっていく姿を見れば、この青年が練習に良い刺激を与えてくれるのは明白なことだった。
こうして俺は耀太と出会い、2人の物語が始まったのであった。