バイクは深夜の道を突っ走る。
海沿いの道を進み、やっとバイクの音が静かになった。
静寂な闇の中に波の音が絶え間なく響いてる。
「なぁ、こんなとこになんの用あんの?それも夜だよ。」
『あんまり怒んなよ。温ったかい飲み物買ってくるから待ってろ。』
缶コーヒーを頬にあててみた。
温ったかい缶コーヒーが冷たい頬に気持ち良かった。
2人で砂浜に座ったが、斎藤くんは黙ってた。
波の音も単調に反覆を繰り返すだけだ。
寒い、潮風が冷たく頬を刺す。
ポケットに入れておいたニット帽をとりだし目深に被った。
こんな時間だけど、そばには斎藤くんが座ってる、それだけでも嬉しい。
その上、周りには誰もいない。2人きりだ。
でも、斎藤くんの気持ちが分からなかった。
俺はもう一回「なんで、ここへ?」って、聞いた。
『え?忘れちゃったの?バイクで行きたいって言ってただろ?バーカ。』
あ〜ぁ、なんでそんなこと言うかな?
確かに言った。言ったよ。
でも嘘ついたな斎藤くん。それもバーカって、オマケ付きだ。
それは泳ぎ(夏)に行きたい、そう言ったはずだ。
でも斎藤くんはバイク仲間と連泊で出かけてしまった。
そのお詫び(?)で、冬の海へ連れてこられるなんて思ってもいなかったよ!
こんな寒いところで泳げるわけないじゃん。
風邪ひいちゃったら、抱いて温かくしてくれんの?
そう思ったものの、、、
こうして砂浜に座って波音を聴いていると、潮風と呼吸と波音が、
まるで一つになっているような感覚で夜の中に溶けていく。
店での自分の行動が恥ずかしく思えてしまった。
こんな気持ちにさせてしまうなんて、斎藤くんってずるいな?
「ゴメン!酷いこと言っちゃって。」自然に口からでた。
『いいよ、気にしてないから。俺さ夜の海って好きなんだ。
邪魔な音も聴こえないし、ただ呼吸しているだけでいい。
ごちゃごちゃ考えていたことも、きっとシンプルな事なんだと思えてしまう。
ぼんやりと波音だけ聞いてると、自分に素直になれる気がする。
そう思うだろう?』
俺は冬の海へ(それも夜)来たのは初めてだけど、
(だろう?)って言われれば、確かにそんな気持ちになってしまう。
そんなことを考ながら、横に座ってる斎藤くんを見ていると、
『ずっと考えてた。俺の事タイプじゃないって言ってたよな?
気になってる。今でも?』
波の音が時々、声を遮ってしまうが確か(?)にそんな風に言った。
えっ、なんで今頃そういうこと言うかな?
あの言葉は、もう既に消化された言葉だと勝手に思い込んでた。
俺はあの時、自分が言った言葉を悔やんだ。
俺たちは結構上手くいってる、と思っていた。
だからなんで今になって、こんな泣けるようなこと言うんだ?
でもそれは、斎藤くんが自分の気持ちを全て心に込めて言ってくれたんだと思った。
弱ってた俺の心は、それだけで癒された。
俺も自分の思いを伝えなければ、と思った。
言葉にしなければ、伝わらない事もあるはずだ。
今、言葉にしなければ永遠に後悔したまま生きていくことになる。
そ れ だ け は 絶 対 に 嫌 だ 。