トモ先輩には、そんな俺の感情が見透かされていました。合宿免許では、受講済み、教習済みのハンコを押してもらう欄がある書類に顔写真が貼ってあります。授業が終わると、講師がハンコを押して、生徒が取りに行くシステムでした。
トモ 「コウヘイ、俺の書類もついでに取ってきてよ」
俺 「わかりました」
俺は、書類に貼ってあるトモ先輩の写真がすごくカッコイイので戻ってくるまでずっと見てました。トモ先輩はそんな俺をずっと見ていました。
トモ 「コウヘイ、俺の写真じっとみてなかった?」
俺 「え、あ、そう見えましたか、ええと、先輩の顔カッコイイなと思って」
トモ 「そうなんだ コウヘイだってカッコイイよ それに笑顔は天下一品だよ」
俺は、それラーメン屋じゃん、と心の中で軽くつっこみをいれました。先輩の顔がカッコイイと思わず言ってしまって気持ち悪がられるかなとヒヤッとしたのですが、いつものように「そうなんだ」で受け流され、安心しました。それに、とにかく何でも褒めてくれるので、「マズい、そんなに褒められたらどんどんトモ先輩が好きになっていく、どうしよう」と思っていました。トモ先輩は俺が何をいっても、「コウヘイは頭いいんだな」「そういうところ好きだな」「そういうちょっとずる賢いふうに振る舞う感じ、俺とそっくりだな」とか、とにかく全部肯定なんです。俺もだんだんトモ先輩のマネができるようになり、トモ先輩にも同じように「トモ先輩も頭いいじゃないですか」「そういうのトモ先輩の魅力ですよ」「トモ先輩のほうがズル賢いです、俺尊敬してます」みたいに言えるようになりました。これなら東京に戻ってやり直せるかも知れない、というところで路上教習が始まり、宿舎に戻るまでトモ先輩とはあまり話す機会がなくなりました。
宿舎でエッチなことがあればよかったんですが、先輩との関係はそこまでは発展しませんでした。関係が変わったのは、地元に戻ってからでした。俺はサークルに顔を出す回数が少し増えて、マッケンという1年生がいることまでは認識したのですが、特になんとも思っていませんでした。そのときはホスト見習いのようなバイトをして、学生にしては、ちょっと多めの金を稼げるようになりました。全部トモ先輩に習った話術のおかげです。稼いだ金は、洋服やアクセサリーに使いましたが、トモ先輩への恋愛感情が消えずにいて、地元にちょくちょく帰る費用にも使いました。俺は自分の趣味なわけでもないのにカードショップに通うようになりました。
あとでわかるのですが、このカードショップは半分くらい、地元のゲイのたまり場でした。トモ先輩、トモ先輩の同級生のマッキー先輩、商店街にある定食屋の息子兄弟。他にもいたかもしれません。思い返すと中高校生のころから、4人で何かつるんでいる感じはしていたのですが、何かはわかっていませんでした。みんなヤンキー系なのですが、カッコイイ人ばっかりでした。この4人からすれば、俺がトモ先輩目当てで通うようになったのはバレバレでした。
トモ 「コウヘイは地元がいいんだな 俺もコウヘイにしょっちゅう会えて、うれしいよ」
俺 「やっぱり地元のほうが落ち着くんです。言葉も変えなくていいし、見栄も張らなくてもいいし」
トモ 「コウヘイもやっと俺たちの魅力がわかったんだな 」
俺 「そういうことっス」
トモ 「せっかく自動車免許取ったんだから、みんなでドライブに行かないか?」
俺 「めっちゃいいですね!」
というわけで、お正月休みになって地元に戻ると、みんなでドライブして、山をひとつ越えたところにある温泉街に行くことなりました。車で行くと思ったら、トモ先輩は自分のバイクで来ていて、定食屋の兄のほうと交互で車を運転していました。俺は免許を取ってから東京に戻ってしまってあまり運転していなかったので、わりとまっすぐで簡単な道になるとドライバーになりました。もうすぐ温泉に着くとき、トモ先輩が俺にヘルメットを渡して、最後は一緒にバイクに乗ろうと言いました。落ちないようにしっかり俺を抱きしめろというので、峠を走るとき、俺はトモ先輩を後ろから抱きしめる形になりました。合法的にトモ先輩を抱けるので、俺は心臓がドキドキして、やばい、先輩に俺のドキドキが伝わっている、と思いました。
トモ 「コウヘイ、みんなには言ってあるから、ちょっと寄り道するぞ」
俺 「え、俺財布とか車の中のカバンですよ 大丈夫ですか」
トモ 「大丈夫、いいところ行こう」
そうして連れて行かれたのは、カップルが来て夜景を楽しむことで有名な展望台でした。冬の夕暮れなのでもう人がいないのですが、トモ先輩は展望台の端っこに行くと、俺に寄り添ってきました。俺は、いつもの先輩のいい匂いがするので、たくさん息を吸って幸せな空気にひたっていました。
トモ 「コウヘイ、驚かずに聞いてくれる? 俺、コウヘイのこと好きになったよ」
俺 「え、それってどういう……」
トモ 「好きっていう意味だよ、コウヘイと付き合いたい」
俺 「でも、彼女がいるって言ってたじゃないですか ちょっと混乱してきました」
トモ 「女は遊び、コウヘイは本気だよ 俺と付き合ってくれる?」
俺 「俺も先輩のことは好きです でも付き合うっていうのは……」
トモ 「俺たち、付き合っているようなものだよね 合宿ではずっと一緒だったし、コウヘイは毎週のように地元に帰ってくるし じゃあ、一歩踏み出して、俺とちゃんと付き合ってみようよ」
俺 「んー」
と意気地のないいつもの俺に戻ったら、トモ先輩はいきなりキスしてきました。それで俺の股間をタッチしてきて、「コウヘイ、勃ってるじゃん、俺のこと好きってコトだよね」と念押しされ、俺は「わかりました、先輩と付き合います」とだいぶ強引に言わされました。
温泉につくと、マッキー先輩や定食屋兄弟が待ってました。