これってほぼレイプだな、と思った俺は、始発のバスを乗り継いで家に帰ることにしました。トモ先輩にお尻を掘られたあと、定食屋兄弟にも1回ずつ掘られて、俺はぐったりしながら、脱走を夢見る奴隷のように、この状況から逃れることだけに希望を見いだし、何とか理性を保っていました。実家に帰ると、俺はシャワーを浴び、帰宅するとき途中で見つけたコンビニで買ったリステリンで、さらに口を何度も洗浄しました。リステリンの1リットルボトルを使い切った時間の世界記録くらい、何度も何度も洗いました。お尻の穴も、シャワーとボディシャンプーで徹底的に洗い流しました。地元にも居場所がなくなったことを悟った俺は、東京に戻る決心をしました。
東京に帰ると、サトシからトモ先輩が俺のことを心配している、という連絡が入りました。俺は地元と縁を切り、東京でやっていく決心をしていたので、トモ先輩とも地元とも決別するための方法を考えました。まず、トモ先輩には、怖くなって逃げたことを謝り、週末に帰るのでカードショップで待っててください、と言いました。土曜日、俺は東京でバイトを入れ、わざとスマホを家に置きっぱなしにして、一切の連絡を絶ちました。帰宅すると着信とか未読メッセージがたくさんあったのですが、サトシのメッセージだけを読みました。
サトシ 「トモ先輩、コウヘイ先輩をずっと待ってたけど、来ねえじゃんと言って、怒って帰ってしまったよ」
俺 「あれ、週末に帰るとは行ったけど、次の土曜日に帰るとは行ってないよ。トモ先輩の勘違いじゃないかな」
サトシ 「なんだ、そういうことならトモ先輩に言っておくよ」
もちろん、日曜日にも俺は地元に帰りませんでした。俺は「週末」とはいったけど、「今度の週末」とは言ってません。「俺に未練があるなら、カードショップで週末、一生俺を待ってればいい」と心の中でトモ先輩を呪って、「ずる賢いコウヘイ」というトモ先輩の評価どおりの男に東京でなることにしました。実家の合鍵も、東京のアパートへの帰宅途中のドブ川に投げ捨てました。
それからの俺は最悪でした。ホスト見習いのようなバイトは続けながら、出会い系で女を食いまくることにしました。トモ先輩に習った話術は、めちゃくちゃ有効でした。とにかく褒める。しかも、ここを褒められたいと思っているポイントを、持ち物や仕草から読み解いて褒めるんです。俺の中では「シャーロック・ホームズ法」と呼んでいるのですが、髪型、化粧、アクセサリー、歩き方、手の付き方、さらに表情とか会話のかぶせ方みたいので相手の興味・関心、弱点やコンプレックス、知能指数を瞬時に読み取り、「ここを褒めればいい」というポイントをつくんです。男女の出会い系だと、おこぼれ狙いのゲイもいるので、男にも女にも、カネに困っているイケメンを演じて、食事代、洋服代、アクセサリー代に、お小遣いをもらえるように誘導しました。男女とも年上の人ばかりを狙いました。俺がやっているのは、たぶんトモ先輩と同じでした。俺はトモ先輩に自分がされたことを浄化したくて、トモ先輩と同じ、人間のクズに成り果てました。狩りの後は、必ず近所のコンビニでリステリンの100mlのほうを買って、公園で口を洗ってから帰宅する日々が続きました。