俺と櫻井先輩は小さな小屋のようなシャワー室に向かった。
途中サッカー部の顧問に「練習もいいけど早く帰れよ」と言われた後だ。この顧問はあんまりサッカー部を見にこない。
俺たちは無言のままシャワーを浴びた。6箇所あるうちの一番隅の左端のシャワーを選んだ。「じゃあ杁月の隣使うわ」
櫻井先輩はわざわざ6個あるうえに入ってすぐにあったのにわざわざ隣を使った。
俺は何も話さんばかりと急いで浴びた。
「やっぱアイツにやられたんだら?」
櫻井先輩が話しかけてきた。
「だったら?」
首までの仕切りはなく、顔は見えていた。櫻井先輩は肩も見えていた。ガッチリしていて、筋トレと練習で培われてきたものなのだろう。
「お前そんなんだからいじめられるんよ」
櫻井先輩は諭すように言っていた。
「もう別にいいんです。慣れてますから」
するとシャワーを止め、タオルで体をふき始めた。
「なんかあったら俺に言えよ?」
「はあ…」
「てか佑介と兄弟なんだな」
兄の名だ。
「そうですよ」
「じゃあ家近いなあ」
「そうなんですか」
俺は興味なさげに言った。
「じゃあ一緒に帰るか」
思いもよらない一言だった。
「歩いて帰るんでいいです」
「俺の言うことは聞いとけ」
「友達待ってるんで…」
すると櫻井先輩は目を合わせてきた。
俺は目をそらした。
「わかりました」
「じゃあチャリ置き場で待ってるね」
俺はもう一回シャワーを浴び直した。