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さよならの向こう側には…【涙の受験編、中編】36〜40
 長編編集部φ(..)  - 07/6/29(金) 10:44 -
俺「試験どうだった?」
学校から自転車ですぐの所にあるファミレスに入り食事をする事になった。食べ終わった後にデザートを待ちながらの会話となる。
光「まあまあかな。前回以上かも知れないぜ」
ニコニコ顔だ。
俺「どうしちゃったの?結果が出る前にそう言えるならかなりいいはずだよ」
何がどうなったのか知らないが、ヒカルのやる気には見習うところが多々ある。
光「まぁな。結果が待ち遠しいよ」
俺「ジンじゃなくても驚くはずだよね」
デザートが運ばれてきてから、一時明るい会話が続いた。
光「ところで話って何だ?」
楽しい話が続いた中で、いきなりヒカルに問いかけられ俄かに緊張してしまう。
光「話しにくい事なのか?」
俺「うん。ちょっと…」
逃げられない事態に、深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着かせようとする。
光「カズヤの事だろ?」
俺が決心を固め様とする前に、ヒカルの方からズバリ言われてさらに狼狽えてしまった。
光「当たりか。それで?」
さらにたたみ掛ける様な質問に何も言えない状態が続く。
光「やっちゃったか?」
ヒカルと目を合わせた。顔はいつもと変わらないが、真っ直ぐ俺を見ている。
俺「…ごめん」
そう答えるのが精一杯だった。それ以上なにを言おうとしても言い訳にしか聞こえない様な感じがして適当な言葉が出てこなかった。
ヒカルは特に表情を変えずに黙って俺の様子を窺っている様だったが、ようやく口を開いた。
光「カズヤの事はどう思ってるわけ?」
覚悟を決めた。素直に答えるしかない。
俺「大事な友達だと思ってる。多分普通の友達以上だと…」
ヒカルはなおもじっと俺を見ている。
俺「最初はヒカルとカズヤが立ち話した内容をどうしても知りたくて、カズヤの家まで聞きに行った時にそういう事になりかけた。でもその時は拒否したんだけど、最近になって…1週間前かな…カズヤに辛い事があったみたいだから慰め様としたんだけど、その時にしちゃって……ホントごめん…謝ってもどうにかなるもんじゃない事は分かってるけど」
ヒカルは顔色一つ変えずに聞いていた。話が終わった後も目を反らさず様子を窺っている。
しばらくしてヒカルはゆっくり話し始めた。


光「あの時俺とカズヤがどんな話をしたのか詳しく聞いたのか?」
カズヤが話していた事を思い出す。多分カズヤの家に行った時に、カズヤを突き飛ばす直前に少しだけ聞いた様な気がする。
俺「たしか、カズヤが『やりたいようにする』って言ったら、ヒカルも『好きな様にしろ』って言ったとかって」
それ以外にカズヤの口から何か聞いたのか思い出してみたが、ほとんど思い出せない。というよりも全く聞いていないんじゃないかと思う。
光「それだけか?まぁ確かに間違っちゃいないさ。ただもう少し細かい話をしたんだよ。まずおまえがカズヤに憧れを抱いているらしいって事だな。それに対してカズヤもおまえの事が気にいってるって言ってたよ。カズヤも正直にそう話してた。
だから俺もシュウの事が好きだから離したくないって言ったんだよ。だったらお互い好きな様にしようぜって事で終わった。確かに俺もカズヤも意地を張って言ってたと思うぜ。その時はかなり険悪だったと思う。これが最初の日の話さ」
俺「最初の日?まだあるの?」
ヒカルは少しだけ笑って言った。
光「その後になってカズヤと偶然会った時に話をした。『シュウから何か話を聞いてるか』って聞かれた。『何も聞いてない』って答えたら、アイツが自分の家で力づくでしようとした事を話してきたよ」
ヒカルはそこで一旦話を切り、残っているデザートを食べ始めた。食べながらチラチラと俺の様子を窺っている様だ。
俺としてはその話にかなり驚いた。
カズヤはそんな事を話したなんて一言も言ってなかった。しかも何度か俺に『素直に話してみれば』って言ってたはずだ。

もう一度あの時からの出来事を思い出してみる。
ヒカルとカズヤが最初に話した後、ヒカルに強引にトイレに連れ込まれた。かなり怒っている感じだったのを覚えている。
それでカズヤに問い質したら、週末家で話す事になり、家で一悶着起こった。
その後すぐに修学旅行になって、ホテルで3人で話した事があった。確か2人の様子にヒヤヒヤしていたはずだ。
それで帰ってきてからは学園祭まで慌ただしかったのでヒカルに話せずにずっと来てしまっていた。

俺「いつ話したの?」
今までこの場で狼狽えていた事も忘れ興味津々でカズヤに聞いてみた。


光「修学旅行から帰って来てすぐくらいだったかな。偶然カズヤと2人だけになった時に話しかけられたんだ」
食べ干したデザートが物足りなかったのか、スプーンを弄びながら、ゆっくりと思い出すように話し出す。
俺は黙って聞いていた。
光「カズヤがおまえに手を出したって言った時にアイツを殴ってやりたかったよ。だから最初はおまえにも会わないでいたしメールもあまりしなかった。たださぁ、カズヤも謝っていたし、俺も好きにしろって言ってたわけだしな。段々カズヤならどうなってもいいかなって思い始めた。
だから、もう一度その後カズヤに会った時に、好きにしていいからって言ってやったんだよ。もう怒ってないって事も伝えた。
ただ俺もおまえを失うのは嫌だったからそれははっきり伝えといたよ。
カズヤもおまえと仲良くしたいって事だったから、2人で話して『後はシュウのしたい様にさせる』って事になったんだよ」
一旦話を区切り、ヒカルはデザートを追加した。
光「それでおまえは俺達の事をどう思ってるわけ?」
俺は前にあるほとんど手をつけられていないままのデザートを眺めながら、そこまで一気にヒカルが話した内容を考えてみる。
俺『2人がすでに何回も会ってそんな事まで話していたとは思わなかったし全く気づいていなかった。そう言われてみれば、カズヤもここのところヒカルの事で嫌な顔をする事もなくなっていた様に思う。
ヒカルが怒らなかった事についてはホッとしたが、ただ話を聞いてみれば、やっぱり2人とも別の相手がいる事は気分良く思ってないのが伝わってくるし、そんなの当然だ』
光「俺達が勝手に話した事だし、おまえがそれについて考える事はないんだぜ?思ってる事を言えばいいんだからさ」
考えてるのを見兼ねたのかヒカルが諭す様に言った。
俺もようやく口を開いた。
俺「俺はヒカルの事を一番大事に思ってるよ。これはホントの事。多分それはカズヤも分かってる事だと思う」
2つ目のデザートが運ばれて来たところで話が切れ、俺を見ていたヒカルも意識が別の物に移った様だ。
その間に俺は次の言葉を探していた。


俺「確かにヒカルの事が一番大事だと思ってるよ。いつになっても変わらずにね。
ただカズヤを見てると時々可哀想に思える事があるんだよ。うまく説明ができないけど…。まぁ、カズヤに憧れてたのは事実だし、今となっては言い訳にしか聞こえないのも分かってる。
ヒカルに言うのは辛いけど、カズヤとの事も決して遊びのつもりでやったんじゃないんだよ。だからヒカルに嫌われても当たり前だと思ってる…」
黙々とデザートを食べていたヒカルが言葉を挟んだ。
光「俺が一番?」
表情は変わりなく言う。
俺「うん。それは間違いないし、多分カズヤも俺がそう思ってるのは分かってると思う」
そう言ってヒカルの様子を少し窺った。視線に気づいたのか顔を上げて話し出す。
光「でもカズヤも大事って事か?」
俺は言葉にできず、とりあえず小さく頷いた。
ヒカルはそれを見て少し考えている様子だったが、しばらくして口を開いた。
光「正直言うとさぁ、俺だってやっちまったなんて聞くとショックだよ。それもかなりな」
そう思うのは当然の気持ちだ。俺の心にも突き刺さる。
俺「…ごめん」
その言葉には特に反応せず、再度残り少なくなったデザートを食べながら話し出した。
光「まぁ本心はそんなトコだな。今さぁ、おまえの口から『カズヤとは遊びでやった』とか言われたらどうしたかなって考えたけど、もしそうだったらブン殴ってたかもしれないな。でもおまえはそんな気持ちじゃない様だし、ショックはショックでも、殴るような気持ちにはならないよ」
少し間をあけたがそのまま話し続ける。
光「よく考えてみろよ。まず俺だってカズヤに真面目に話しかけられて、なんとなく許しちまったわけだよな?カズヤもカズヤで立場は理解してるんだろ?
それでおまえが俺の事を一番に思ってて、カズヤの事も大事にしたいんなら、3人ともお互いの気持ちはすべてわかってるって事だし、誰も置かれてる立場をはき違えてないわけだよな?」
考えていれば確かにその通りで、それぞれが自分の状況を把握している様に感じる。
ようやく食べ終えて、俺を見ながらさらに話す。
光「なら別にそれで良くない?俺は今まで通りで構わないし。でも1つだけ言っておきたい事があるんだよ」
急にそう言ったので俺は少し緊張した気分になった。
光「その前におまえのデザートちょうだい?」
言うが早いか、皿に手が掛かっていた。


光「食べないみたいだからもらうぜ」
そこに俺の意見など全くなく、ヒカルはデザートを引き寄せすぐに食べ始めた。
いつもは嫌味の一つも叩くところだが、今日は苦笑しながらもヒカルの様子を見ているだけにする。
ヒカルは黙って食べていたが、しばらくしてスプーンを置き俺の方を向いた。
光「俺は今後もおまえの事が変わらずに好きだからさ、おまえにも大事にしてもらわなきゃな」
そう言って笑ったが、すぐに笑顔が消え真顔になった。
光「でもいいか?一応は認めたけど、これからもし俺とカズヤの立場が逆転する様な事になったら、その時は俺とおまえが終わる時だからな」
そう言って、最近にはないキツい目でじっと俺を見た。
俺もヒカルを見ていたが、それは見返したというよりも、ただ怖さに目が反らせなかっただけだったと思う。
俺「…分かった」
ようやく一言だけ言葉を絞り出した。
ヒカルはその言葉を確認してから残りのデザートを一気に食べた。
ヒカルを見つめながら最後の言葉の重さを思い知る。
悪いのは自分だという事は充分に分かっている。ヒカルが何をしたわけでもない。それなのにこれほどの譲歩があるだろうか。
よく見ると、無心に食べているだけで、あまり味わって食べてる様には思えない。ほとんど妬け喰いの様だ。
ヒカルがキレた時の凄まじさは何度か見た事があるし、きっと今日もそうなんじゃないかと予想はしていた。
ただそんな予想に反して冷静に語っていたので、一瞬ウヤムヤになってしまうのかと思っていたが、内心はかなり苛立っている事が最後の言葉と妬け喰いに充分に込められている様な気がした。
光「あ〜食ったなぁ。このまま俺ン家まで行くか?」
俺「うん」
光「おまえのオゴリでいいだろ?」
そう言って笑いながらVサインを出している。
今日は何も言わず黙って従う事にした。

なんとなく認められてしまった3人の関係…。
この時はヒカルを宥める事に懸命になっていたので深く考える余裕すらなかったが、これ以降それぞれに対する微妙な戸惑いや駆け引きが生まれ、多分今までとは違う空気が漂っていく事になっていったと思う。

光「帰ったら早速お仕置きだな」
そんな事も今は知らず、2人でヒカルの家に向かっていった。

引用なし

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