光「あーあー、勢いで顔にかけちゃったよ。可愛い顔が台無しだな」
俺の顔をマジマジと見ながらそう言った。
俺「分かっててやったんでしょ?」
光「まぁな」
いつもの様にニタニタ笑っている。
俺「早く拭き取ってよ」
顔をきれいにしてもらったが、結局2人で風呂に入る事にした。
風呂から上がり、ヒカルは軽い食事を摂ってから部屋に戻る。
それからしばらくはゲーム等で時間を潰し、8時くらいに外食を済ませて家に戻ることにした。食事中に家族から連絡があり、1日早く明日戻ってくる事になったので、ヒカルも明日の昼過ぎに帰る事になった。
俺「また遊びにくればいいさ。ヒカルならいつでも来れるでしょ?」
光「そうだな」
しばらくはゲームを再開するが、対戦ゲームでのヒカルの弱さは相変わらずだったので、このまま続けると熱くなってしまうと思い適度に負けてやる事にした。勝って喜ぶヒカルを横目に見ながら、俺としてなにかヒカルに勝てる物があるとすれば、このゲーム以外にないのかも知れないなんて少し寂しく考えたりもしていた。
その後俺は先にベッドに入り本を読んでいたが、ヒカルは1時間ほどゲームを続けていたが、それも飽きたのかようやく辞めて、いきなり部屋の電気を消しベッドに入ってきた。
俺「本を読んでたのに!明かりをつけてよ」
光「いいだろ?少し暗くして話でもしようぜ」
エッチかとも思ったが話とはちょっと驚きだった。ここは敢えて反論せず従う事にする。
ヒカルはチラッと時計を見た。
光「12時を回ったし、まずは誕生日おめでとうだな」
そっか、今日は俺の17回目の誕生日。17回目にして初めて祝ってもらえる誕生日って事だ。
俺の誕生日は毎年が春休みなわけで、今まで同級生に祝ってもらうなんて事がほとんどなかった。毎年やって来る誕生日が、俺にとっては一番友達に会わない時でもあった。友達に『誕生日いつ?』って聞かれて、この時期である事を話した時の友達の様子を窺うと『じゃ会えないや』みたいな顔をされる事が多かったので、無意識に隠していた事もあった。俺にとって寂しい思い出しかない誕生日。いつからか自分でも誕生日前にアピールする事もなくなり、どうでもよくなってしまっていた。
今年はヒカルがそばにいてくれる。人生の中でも一番心に残る誕生日かもしれない。
俺「黙ってたのに分かってたの?」
光「当たり前だろ。忘れるわけないさ」
俺「そっか。ありがと」
光「あー、プレゼント渡さなきゃ」
そう言ってベッドから出ようとしたので、ヒカルの腕を掴んで止めた。
俺「暗いし後でいいから。それよりしばらくここにいて?」
光「うん。わかった」
しばらくベッドの中で無言でヒカルに抱きしめられていた。実際の温もりもそうだが、心から包んでくれる様な心地良い包容力に浸っていく。
光「俺達って4月からつき合いだしたじゃん?そん時にはどうなるかと思ったし、おまえの誕生日まで持つかなって思ってたけど、なんだかんだでここまで来たよな」
俺「そうだね。時間がないなんて言ってたけど、やっぱり早かったような気がするね」
光「そうだな。色々あった様なそうでもない様な。何にも変わってない様な気もするな」
俺「そうかな?ヒカルは変わったよ」
光「どんな風にだ?」
俺「最初は無口だし、堅物みたいだったかな。いつも怒ってる感じで。俺何人に『どうやって友達になれたんだ』って聞かれたか分かんないよ。それが今じゃ俺の前では明るいし頼れる存在だもんね。今でもみんなに堅物って思われてるでしょ?」
光「そうでもないみたいだぜ?俺はおまえに変えられたってジン達に言われてんだから。この間担任にも言われたよ」
俺「担任になんて言われたの?」
光「最近やる気が違うってさ。『好きな女でもできたか?』だとさ」
俺「あはは、なんて答えたの?」
光「当たり〜って言っといたよ。でも俺にとってはそう言われるのは嬉しい事なんだからな」
そう言って笑うヒカルは暗がりの中でも分かるくらい明るいノリで話している。
俺「最初に玄関で会った時は怖かったのにね。最初って言えば図書館ではビックリしたよ。でも嬉しかったなぁ」
光「なんか勢いでやっちまったよな。でも少しずつエッチなことも覚えて行ったし」
俺「でもその後さぁ、謹慎になった時にはどうしようかって思ったよ。退学にでもなったら会えなくなっちゃうってね」
光「おまえ怒っちゃってさ。ジンとどうしようかって寝ないで作戦練ったんだぜ?」
俺「そうだったの?笑える」
光「ここで初めてバックをやった時も俺緊張してたよな」
俺「そうかなぁ、すごいSだったし余裕ある様に見えたけど?」
光「んな事ないさ。ここに入れればいいのかって戸惑ってたよ。ただすげぇ気持ち良かったのを覚えてる」
俺「ははっ」
2人で笑ってしまった。
光「夏休みもここで一緒だったし、2学期も色々あったけどクリスマスも一緒だったしな」
俺「あん時はヒカルに入れちゃったしね」
光「あれは特別!めでたい時だけだからな」
俺「たまにはいいよね?」
光「たまにはな。おまえの苦労が俺にも分かったよ」
そう言ってヒカルにキツく抱きしめられた。
光「やっぱりいろんな事があったな」
俺「そうだね。ヒカルと一緒にいると時間が経つのが早く感じるよ」
振り返ってみれば、かなりのスピードで駆け巡って行った様に感じる。
俺「もう3年生だね」
光「あと1年でどんなになってるんだろうな。来年もこの日にこうしていられるのかな」
ちょっと真面目な声になっている。
俺「いてくれなきゃ。寂しい誕生日を迎えるのはイヤだよ」
光「分かってるさ。またここでこうやって1年間の反省会をしような」
俺「うん。必ずね」
ヒカルに頭を寄せて熱いキスをしばらく交していた。
俺「ヒカル…やりたい」
光「…うん」
薄暗い部屋の中でもヒカルの頷く顔がはっきりと見えた…。
さよならの向こう側には…【涙の受験編、中編】までは終わりです。後篇以降は本編の方で楽しんでください。