その日からIは学校でも、人がいなければキスしてこようとした。
「じゅんき〜」
ぼくは振り向かない。振り向けばIのキスが待っているだろう。
「お前これから部活だろ?そろそろ行ったほうがいいって。今週予選なんだろ?」
ぼくはIのことは好きだけど、やっぱりこんな場所では気が引けて、距離を置く。
「最近じゅんき冷てぇで。あの日のことを忘れたんかい?」
「あの日の俺はどうかしてたから」
後ろからIの腕がぼくの首に回る。片方の手でぼくの頭を撫でる。ぼくはそれを振り払う。
「照れんなよ笑”俺早く部活行かんといけんからさ!こっち向けって」
「勝手に行きゃえかろうが!なんでいちいち俺がおでかけのキスせんといけんのんな笑”」
「じゅんき〜」
「じゃあ、俺も部活あるから、また部活後な!」
ぼくはIに微笑み、歩くペースを上げる。
「じゅんき〜!俺待ってるから!ずっとずっと待ってるから!笑”」
「なんじゃそら笑”」
ぼくは部活に向かった。
部活後、校門にはもうIがいた。
「じゅんき〜!会いたかったで!」
相変わらずデカイ声だ。誤解を生む発言はやめてほしい。
「おおげさだから笑”なんか嬉しそうじゃん」
Iは興奮していた。
「実は俺、レギュラー選ばれました!すごくね!?」
Iは白い歯を見せて笑っている。
「え?ほんまに!?すげぇが!おめでとっ!」
2年でレギュラーになるのは難しいらしい。ぼくも素直に祝福した。
「だろ!俺まじがんばるわ!じゅんきのためにも」
「おう!自分のためにがんばれ!笑”」
「でさ!」
Iはぼくの前に立ち、恥ずかしそうに、照れながら言った。
「でさ……ええっと……俺の彼女になってくれ!それで応援しに来てほしい!」
「えっ?何言っとるんな?いきなり。はっ?」
ぼくは混乱する。
「いや、なんていうか……じゅんきに応援してもらえたら、俺はなんでもできる!」
「いやいや、応援はするよ!でも、それとこれとは違うだろ?だって、なんでそうなるんだよ」
ぼくは混乱する。
「気持ちの問題なんだって。これを機に俺の彼女に…それが嫌なら、俺をじゅんきの彼女にしてくれ!」
「わけわからん。彼女とか、付き合うとか、俺よくわからんし…」
「なんで?俺じゅんきのこと好きなんだよ!」
「それは嬉しいけど、だめだよ……わからんけど、このままがいちばんいい、と思う」
Iは泣きそうな顔だった。
「じゃあ、応援は来てくれよ。な?」
「ああ。もちろん」
ぼくはIの目を見れず、うつむいてうなずく。
Iはぼくにキスをして微笑んだ。
「じゃあ、俺今日は先帰るわ。じゃあな」
ぼくは後悔してるんだろうか?自分でもわからなかった。
Iの背中を見つめる。
Iに悪いことしたかもな。
とにかくぼくにはわからなかった。
つづきます。