「でも意外だね。……戻ってきたんだったら、一回くらい家に来てくれてもいいのに」
「しかたねぇだろ……。色々忙しかったんだから」
「じゃあ今度来てよ、家に。忙しくなくなったら。久しぶりに。……いいでしょ?」
さりげなくブレザーの裾を引っ張って自己アピール。昔からの癖と言うかなんと言うか……。でも、これをやると栄治は大体僕のほうを見てくれる。昔から。
「…………遊斗さ、俺より強かったけど……俺のほうが泣き虫だったけどさ……」
「ん?」
「……俺より甘えん坊だったよな。昔から」
誘いの返事の前に言われた一言に、僕は一気に顔を赤くした。
「な、な……何言っちゃってますかな〜、栄治は」
最初の「な」を噛み噛みなのは図星だったから。人間図星を指されると、変にうろたえてしまうものなんだと思う。
「俺が約束に遅れて行くと、“えーちゃ〜ん”って半泣きになりながら抱きついてきたし。合宿ではいつの間にか俺の布団に潜り込んで寝てるし」
「そ、そういうえーちゃんだって、僕に負けたら泣きながら“手加減してよ〜”って言ってきたり、他の門下生にフルボッコされたりして僕に助け求めてきたじゃん」
互いに傷に塩を塗りあう不毛な戦いに発展しそうになったところで、僕は鋼鉄のような自制心をフル稼働させて、話を元に戻そうとした。
「ま、まぁ昔のことは置いといて……。……ぶっちゃけるとね……」
「おう」
「……その……昔、えーちゃんが僕に教えてくれなかったこと、教えて欲しいし……」
「なんだっけ」
「中学上がったら教えてくれるって言ってたこと!中学に入った途端にいなくなるから、教えてもらえなかったじゃん」
「……ん?……あ、あぁ!思い出した!!いいぞいいぞ!!いくらでも教えてやるよ。んじゃあ、今夜行くわ!今夜は寝れないぞ〜、遊斗〜」
「はぁ?そんな長くなるようなことなの?メンド……。ってか、今夜って。……まぁ、いっか。どうせ親夜勤だし」
「よし、じゃあ決定な」
そう言って、ニコニコと笑いながら、バシバシと背中を叩いてきたえーちゃんに、ささやかに小手拉ぎをかけたのは言うまでも無かった。