次の日、家庭教師の事務所に電話をした。
俺は家庭教師を辞めようと思った。
かなたのことを完全に好きになってしまっていたし、もう行けない、このままでは続けられない。
適当な理由をつけて半ば強引に辞めた。
その日は、実家から姉が来ていて就職活動で何日か泊めさせてとのこと。
俺も新しいバイト探そうかなっと思った。
その日も結局かなたからのメールはなかった。
何日かたち、事務所から何回か電話がかかってきていたが拒否ってた。
結局あの日以来、かなたからのメールは全くなかった。
まああの年齢の子やし、あの日最後冷たくしたし、そんなもんやろうと思っていた。
しょっちゅうかなたの顔が浮かぶけど、無理やり考えないようにしてた。
そして1ヶ月後。
ふと事務所からの電話をとってしまった。
しまったー。
事務所の人「ああ、やっとつながった。
先生何してたんー?
あのな、前もってもらってたかなた君、新しい先生に引き継いだんやけどな、全然先生の言うこと聞かんし、全然勉強せえへんくなっちゃったんやって。
それでこの前のテストが最悪やってな。
で親御さんから聞いたら、本人が先生(俺)じゃなかったら勉強せえへんって言うてるって。
先生はもう辞めたから無理は言われへんけど、先生に聞いたらなんかわかると思って…」
なにそれ…。
俺じゃなかったら勉強せえへん?
でもあれだけメールで素直な子やけど、メールも電話も一切来てない。
かなたの携帯に電話をかけてみた。
現在使われておりませんコール。
はあ?
メールも届かない。
気になったので家に行ってみた。
かなたはいなかった。
えいた1人だった。
そしてそのときえいたに聞いた。
かなたがあの日携帯を水没させてしまったことを。
それでメールも電話も来んかったんや。
俺は1ヶ月もたってそれを知ったことを悔やんだ。
なんでこっちから1回でも連絡しなかったのか。
確かに俺はかなたを好きになってしまうことを怖がっていた。
自分が情けなかった。
もう普通に…。
かなたのことが好きなのに…。
かなたが好き…。
えいたからこの1ヶ月かなたの様子がおかしいことを聞いた。
俺はえいたにかなたの新しい携帯番号を聞いてかけてみた。
何回かけても出なかった。
諦めきれず、えいたにかなたがいそうなところを聞いてみた。
えいた「多分部活やと思う。」
学校に行ってみた。
でも俺が学校の中に入るわけにもいかないので、校門で待っていた。
7時には学校が閉まると聞いていたので、今は6時半、30分待ってみることにした。
雨が降ってきた。
傘をさして待っていた。
ふと考えた。
電話はかけられなくてもかなたは俺の家を知っている。
もし俺にめちゃくちゃ会いたかったら家に来たらいいだけやし。
別に会いたいって訳じゃないかも…。
その間、何回も電話したけど全く出ない。
部活を終えた子達が沢山出てきた。
でもかなたはいない。
校門が閉まった。
もいっかいかなたの家に寄ったけど帰っていない。
もうただ単にかなたに会いたいと思った。
とぼとぼと自分ちに帰った。
すると。
傘をさしたまま俺のアパートの前で座っている子がいた。
かなただった。
いつものスウェット姿。
傘をさしていたけどけつをつけて座っていたしびしょびしょだった。
「かなた」
気付いてこっちを見たけどすぐ目を反らした。
「こんなとこで何してんの?」
近付いて聞いてみた。
かなた「待ってた。」
「いつから?」
かなた「4時くらい」
俺がちょうど家を出たくらいだった。
4時間近く…。
雨のなかで…。
「はぁ、何してんねん。とりあえず家入ろ。」
二人で家に入った。
タオルを渡して濡れた体を拭いた。
「なんか勉強サボってんのやって?」
かなたは何も答えなかった。
「てか新しい番号聞いたけど、携帯にずっと電話してんのになんで出えへんの?」
かなた「携帯は家に置きっぱ。」
「はあ?なんで?」
長い沈黙のあと、かなたは答えた。
かなた「あの携帯はな。先生のアドレス入ってないから持ってても意味ない。」
俺は泣きそうになった。
こらえながら言った。
「それで俺が来んかったら勉強せえへんって?
それより前に俺に会いたかったら家に来たらいいやん。
なんで今ごろになって…。」
かなた「きた。
あの次の日も。
先生が辞めるって聞いた日も。
何回も何回も。
でもいっつも女の人がおった。
一緒に住んでるんかなって思った。
でも何回も玄関のとこまで来た。
けどチャイム押されへんかった」
かなたは少し目をうるうるさせながら言った。
しまったー。
アネキかー。
「ごめん。そっか。
いまごろ遅いけどアネキが来てたんやけど…」
ほんま最悪…。
かなたは顔を隠すように横を向いてた。
キラッと涙が光って見えた。
ヤバかった。
抱き締めた。
4時間近くも雨のなか待っていたせいで、かなたの体は冷えきっていた。
すごく震えていた。
でも力強く抱きしめ返してきた。
かなた「ほんまは…。
先生のアドレス覚えてた。」
「えっ」
かなた「でも入れへんかった。
口で言いたくて。
メールでしか素直になれないとか、そんなんじゃあかんと思って…。」
かなたは真剣な顔になった。
かなた「俺の好きな人は…」
…長い沈黙。
かなた「あー、やっぱ無理。後でメールする。」
「なんやねんそれー。」
涙目のかなたはニコッと笑った。
俺は再び抱き締めて、ずっと離さなかった。