なんだか眠くなった。
空の色と木のざわめきが静かになった。
いやそう思っただけかもしれない。僕はそう思っただけで世界を選べる。
シグルはまたコクコクと頭を揺らしている。
「・・はぁ〜。・・またおねむさんかょ。めでてーやつだこと。」
ゆういちはシグルの奇を衒ったような行動が好きだった。
しかし、きっと無意識でやってることなのだろう。誰の意思でもなく。
「・・くー・・・くー・・・」
シグルの寝息だけが部屋に響く。
下には運んで置きっ放しにしてあるオレンジジュースがただポツンとあるだけだ。
シグルはなんで俺にあんなに優しいんだろう。
なんであんなに俺にだけ笑顔を向けてくれるんだろう。
何処か、お屋敷のプールの底に投げられた鍵といった構図が不意に頭を掠める。
もう見つからないかもしれない。だが、探さないと辿り着けない気がする。
気のせいだろうか。
シグルの寝息がゆういちの頭の深いところに訴えかける。
頭の中でホルモンが分泌されるのがわかる。ドーパミンかもしれない。
ふらふらと立ち上る湯気も、外気に触れれば塵のように消えて舞うらしい。
なんと他愛の無い事だろう。なんと儚いものだろう。
だからこそ良いのかも知れない。
ゆういちの頭の中から堪えきれずに言葉が飛び出す。
「なんでこいつはこんなにも俺をそそのかすんだ?わざとやってんのか?」
ゆういちの心臓は単なる拍動の連続に飽き飽きし、次第に不定期な拍動を繰り返す。
「・・くそっ!・・お前がわりーんだからな。」
こんなにも容易に悪魔と繋がることの出来る自分が可笑しくなってくる。
無論、ご無沙汰な所為かもしれないが
シグルのワイシャツとズボンの隙間からは、まだ十代らしい瑞々しく吸い付くような肌が健やかに顔を出している。
シグルよりも大きなそして、熟れた体が机を退け、ゆっくりとシグルに近づく。
「・・くー・・・ん・・くー・・・」
シグルの首元は相変わらず綺麗で、口付けをしたくなるような白さだ。
何の躊躇いもなく投げ出された細い足首もまた意欲をそそる。
小さな囁きが始まる。
ゆういちの口唇とシグルの肌は相性が良いようだ。
また二人の時間が時を刻み始める。
慣れてはいたが、ゆういちは首の付け根と鎖骨の辺りの、華奢な噛んだら折れてしまいそうな感覚が好きだった。
「・・くー・・・んっ・・・・くー・・・」
蛇のような舌を鎖骨の上で器用に躍らせる。甘噛みした鎖骨から徐々に微電流が流れ始める。
コリコリとした筋肉をゆっくりと解きほぐすように、ゆういちは歯ぎしりのような動作を繰り返す。
「・・んっ・・・ん・・・・すー・・」
日に当たらず育ったような首筋の上には、掛かるか掛からないかくらいの短い髪の掛かった、可愛い耳が待っていた。