正人さんが何度もドアを叩くから、俺は仕方なく出た。
「なんですか?今1人にしてもらいたいんですけど。」と言うと、
「よからぬ事が頭に浮かんでたんじゃねえの?って友達みたいに話してしまいましてすみません、俺急に心配になってね、引き返してきたんだ。
俺も離婚した時、世間体もあるし好きだったから、やる気はなくなったし自棄になったから、家族が消えちゃったらって言い方悪いや、失っちゃったら、悪い事考えてしまうかもしれないって思って。
だから、お土産持って来たよ。今スーパーで弁当割引になってたから二人分!」
スーパーの袋を持って作り笑いをしてる目の前の正人さんに、少しほっとした。
友達は気を使い過ぎる。妻の義母と、両親は腫れ物扱いする、無理に笑顔を作って顔面神経痛になりそうな位だったあの時、スーパーの弁当で俺の領域に入って来てくれた正人さんに、何より感謝してます。
部屋に入ると、ソファーに置いてある写真を見て、「写真、法要終わったんだから部屋に飾りませんか?」と言ってきた。
そうですね、と言い、2人でマンションの壁に釘を打ち込んで、飾った。
「奥さん、里菜っち別嬪だなおい、大樹(息子)もかわいい顔して笑ってるよ、ご主人(笑)」
ご主人だの旦那だの言われるのが落ち着かないので、年下ですから名前で呼んで下さって構いませんから、と言うと、「それは馴れ馴れしくて出来ません」と言う。少し変わった方だった。
独特の間、雰囲気に癒された。束の間の休息のような時間。後追いしようとした考えを吹き飛ばしてくれた。
正人さんは、妻の話しをしなかった。部屋に入ってから、写真を飾るまでの間だけ。
後はもっぱらお互いの仕事の話し。
少しの間、辛すぎる時間を忘れられた。
翌日はお互い仕事が休みとわかり、朝まで飲んで語り合う事にした。