「ああ、えっと…野球部の…転校生?だよな?」
名前が出てこない。たしか、山本…だったような?
陸上部と野球部は隣で練習していたから、奴が野球部だということは知っていた。
けどその他のことは全く知らなかった。
「おう!野球部!そんで転校生!でも転校してきて、もう5ヶ月経ってるんやけど。山本浩介な!」
また白い歯を見せた。人懐っこい笑顔だ。
「あ、よろしく。俺は吉田…」
「ジュンキやろ?」
「あ、うん。吉田純基。なんで知ってんの?」
「みんながそう呼んどった。うちのクラスの女子がすげぇ心配しとったで(笑)ジュンキ君大丈夫かなぁ、って。ジュンキってモテモテなんやな(笑)」
山本はニヤつきながらそう言うと俺の顔を覗き込んできた。
俺はこの童顔のせいで、今までも女子から余計な世話を何度も焼かれてきた。
別に嫌ではなかったが、どうでもよかった。
ていうか、さっそく俺のことを『ジュンキ』と言っているとこに気付いた。
「まぁ女子が言うのもわかるわ!ジュンキの顔整ってるもん。今流行りのカッコかわいいって感じや」
初対面でなんなんだコイツは!?
俺はけっこう人見知りな方だから、山本のペースに全くついていけない。
「あ、じゃあ俺…行くわ。泥落とさないと」
そう言ってこの場から逃げようとしたけど、だめだった。
「1人で大丈夫かよ?戦友として最後まで見届けるって!」
そう言うと、山本は俺の肩に腕を回してきた。
「いや、俺歩けるから」
そう言いながら山本を振り払おうとすると、バランスを崩してよろけてしまった。
すぐさま山本が俺を支えた。
「おし!行くぞ!」
山本はそう言うと俺をしっかりと支えて歩き出した。
俺はなんだか不意を打たれてしまい、何も言えず体を預けてしまった。
山本は俺より背が高く、野球してるだけあって、ガッチリしていて、筋肉が発達しているのがわかった。
見上げると、山本の日焼けしたスッキリとした顔がこっちを見て、白い歯を見せた。
このとき俺は初めて山本、というかコウスケを意識するようになった。