電車を降りるころには、俺らはかなり打ち解けていて、俺はコウスケのペースにも馴れていた。
「野球部と陸上部って隣で練習してるだろ?だから俺たまにジュンキが走ってるとこ見てたよ。いっつも無表情で走ってるんやなって思ってた(笑)」
俺らは改札を出て、同じ方向にある家へと歩いていく。
「いやぁ、だってあの時は大会直前だったから。それにあの大会で俺引退するかもしれなかったし。実際にそうなったけど…」
俺は、あの大会で成績を残せないと引退するという約束を親としていた。親は受験勉強を望んでたから。
「じゃあもう走るのやめたんか?俺はジュンキともう1回走ってみたいけどな」
コウスケを見ると、おなじみの白い歯を見せて微笑んできた。
「俺もコウスケと走ってみたいかな。だって体育祭であんな形で負けるとか、俺らしくねぇもん(笑)」
微笑み返してみた。俺もコウスケと走ってみたかった。勝負とかじゃなくて、一緒に。
「おっしゃ!なら今日飯食ったらここ集合な!8時頃やな。俺ここに越してきてからずっと走っとるんや。トレーニングの一環として。軽いランニング。ええやろ?」
コウスケはツタヤを指差して嬉しそうにそう言った。ちょうどツタヤの前まで来ていた。
「今日!?いきなりすぎじゃね?まぁ大丈夫だけど」
「おし!じゃあまた8時に!俺こっちやから!じゃあな!」
そう言うとコウスケは軽やかに走り出し、ツタヤを右に曲がっていなくなった。
「え?俺もこっちなんだけど」
俺はそうつぶやいて、コウスケが曲がった方向にある自分の家へ歩いていった。
変わった奴だ。
突然現れて、急な提案をし、突然いなくなる。
不意にコウスケの笑顔が浮かんできて、笑けてきた。