「コウスケ……」
俺の声は雨の中に消え入りそうだった。
今俺の目の前にいる人間がコウスケなのか…
俺は確かめるようにつぶやいていた。
「……コウスケ?…」
「ジュンキ……」
俺は暗闇の中で一心にコウスケを見つめた。
コウスケと目が合う。
暗くて表情までは読み取れないが、驚いているのはわかった。
「…あ、俺、その…なんていうか、俺も…ここなんだ、大学…」
突然すぎて、俺は他に言うことができず、慌てて言った。
そりゃ驚くよな
俺は無理やり笑顔をつくった。
コウスケはまだ信じることができないようだ。
コウスケはただ俺をじっと見たまま止まっている。
「えっと…だから、俺……」
なんて言えばいいんだ?
あれだけ考えていたのに…
言葉が浮かんでこない。
いざ実際にコウスケを目の前にして、俺は嬉しいという感情よりも、空虚感に覆われて言葉に詰まる。
沈黙だ。
雨が激しくなってきた。
そうだ、謝らないと
俺は沈黙を破ろうと、再び口を開く。
「コウスケ…俺…」
「とりあえず、来いよ…ここだと、濡れるやろ……俺の家、すぐそこやから…」
片言でコウスケが言った。
やっぱり怒ってるのだろうか
その声の調子から、俺はそう思った。
コウスケは俺から目をそらして、寮がある方へ歩き出した。
俺は黙ってそれに従い、その背中についていく。
コウスケは振り返ることなく、無言で、足早に歩いていく。
コウスケの部屋に着いた。
コウスケは何も言わないまま、部屋の中に入っていき、タオルを2枚持ってきて、戻ってきた。
俺はどうしていいかわからず、玄関に突っ立っていた。
「タオル…」
そう言って、コウスケは俺にタオルを渡した。
その声はやはり片言だった。
部屋の明かりでコウスケが無表情なのがわかった。
俺をまっすぐに見ようとしない。
コウスケに何と思われてても、俺は謝らないと
俺はタオルを握ったままで、このままだと再び沈黙が訪れてしまう気がした。
俺は唾を飲み込んで、口を開いた。
「ごめん…コウスケ……」