体育館の空気に違和感を感じていた。
いつもは冴えないシュートが入るとかじゃなくて、なんだろう。
夜中に自分の部屋で勉強をしてたりすると、後ろに変な視線を感じることはないだろうか?そんな感じに近かった。
俺は幽霊とかそういうのが大の苦手だった。
普段だったら逃げ出すところだが、ここは学校だ。誰に見られているかわかったものじゃない。
俺は視線を感じるほうへ歩き出し、ステージの幕を一気に捲った。
「うわぁあ!!」
なんと翔平と基晴が隠れていたのである。
こいつらに恐怖を感じていた自分が物凄く滑稽に思えた。
「おい、何やってんだよ(笑)早く来たんなら練習してろよ」
まぁ先輩だからこれくらいのことは言っておかないといけないんだ。先輩風を吹かせたいお年頃なのだ。
この時二人がいたことがとても嬉しかった。俺にバレて笑い転げてるこいつらが、控えめに言って、めちゃくちゃ可愛い。
「だって、先輩の練習してる姿が見たかったんだもんー」と基晴が言った。
俺は我が耳を疑った。
こいつは分かって言っているんだろうか?俺がお前らを脳内で犯しているなんてことを。まぁ分かってるはずないよな。
ふと未だに笑い転げている基晴を見ると、ハーフパンツ(バスケは膝下くらいで、ブカブカなのが主流だ)の間から、綺麗な太腿と可愛らしいトランクスが覗いていた。
自分の下半身に意識がいく。息子よ、頼むから鎮まってくれ。
こんなの何回も見たことあるから別にどうってことはないんだけど、俺とこいつらだけっていうシチュエーションが俺の息子を駆り立てるようだった。
「わーったよ。どーでもいいから笑い転げてないでお前らも練習しろよ」
先輩ってもんは大変だ。己の葛藤を抑えながらでも後輩を指導しなくちゃならない。
だけど、出来ることならずーっとこいつらが笑い転げている所を見ていたかった。てゆーか、襲いたかった。
「はぁーい。でも先輩好きな人とかいるんですか??」と翔平。
「いきなりどうしたんだよ」
俺は胸の高鳴りを抑えながらいった。
「あぁいるいる。いるからさっさと練習しろって」
正直に全て吐き出したかった。
目の前にいると言いたかった。
この時には、俺は完璧に基晴が好きになっていた。
性欲だけの話じゃなかった。
この頃にはその辺の女なんてカカシのように思えていたし、その辺の男も同様にカカシだった。
「えーいるんですかー?彼女じゃないですよねー?」
基晴がそういったとき
「おはよーっす」
と2年の部員が来やがった。
なんつーか、この時ほど殺意が芽生えたことはなかったと思う。
なんで普段は遅刻ぎりぎりで来るくせに今日は早いんだよ!と内心かなり毒づいた。ああ、ムカツク。
「おはようございます!じゃあ優さんまた今度話しましょうねー」
そういって二人は乱れた服装を正して俺から離れていった。
肌に触れる空気は痛いくらいだったけど、俺の胸のなかは暖かだった。
そして、凍て付くような冬の風は去り、心地よい春の風が吹いた。
卒業式も終わり、事実上俺ら2年生が最高学年となった。一層部活にも力が入っていた(と思う。)
春休みになり、また地獄のような練習が始まった。朝練という日課は俺もあいつらも変わらず続いていた。
未だに妄想の中ではアンナコトヤコンナコトを基晴にしていたけれど、実際に襲うなんて大層なことは俺には出来ずにいた。
何回もどちらかと2人きりになったときはあったが、今の関係が壊れてしまうのが怖くてそんなことは出来なかったのだ。