内気になったボクは虐められるようになった。
殴られてもやり返さなくなったボクは恰好のサンドバック。
虐めっ子のリーダーは短髪で、背の高い、絵に描いたような野球少年。
小学時代、ボクが唯一名前を記憶できた人物、
ボクは彼のことを『千葉クン』と呼んでいた。
虐めの内容は主に暴力。
現代のように陰湿な嫌がらせがなかったのは幸運だったが、如何せん人目を気にしない派手な虐めだったので、あっという間に学校問題になったんだと思う。
PTAだか教育委員会だかしらないけど、何者かが千葉とボクにイベントを用意したのは間違いない。
虐めが始まってから一月が経とうとしたその日、
ボクは通い先の道場に呼び出された。
いつも道場には沢山の師弟がいたのに、その時は師範しかいない。
疑問で立ち尽くしていると、身体を温めるようにいわれたので、ウォーミングアップする。
それから師範と軽く組み手を交えていると、一人の少年が私服で道場に入ってきた。
千葉クンだ。
千葉クンが道場破りに現れた! (そんな訳ないのだけど)
「お前ら二人、勝負しろ」と、言ったのは師範。
ボクが唖然としていると、千葉クンはボクの三歩前まで歩み寄る。
師範が間に入り、禁則事項を説明する(拳による顔面への攻撃、掴む手、この日は逃亡が付け加えられていた)
心の整理がつかないうちに、それは終わる。
「構えッ」
それでも身体は、掛け声と共に戦闘態勢に入った。
千葉クンも遅れて構えを取る。けれど、粗末な型は素人そのものだった。
「初めッ!」
言葉のゴングが切って落とされた。
じわじわと距離を詰めていくが、後一歩が踏み出せない。
先手を取ったのは千葉クン。その右正拳突きに覇気は無く、いつものような勢いは微塵もなかった。
ボクは反射的に払いのけ、相手の肋骨に拳を当てる。
しまった、と後悔した。
いじめっ子のリーダーを殴ってしまったんだ、仕返しが恐いったらありゃしない。
師範が後ろから睨みを効かしている。
ボクも千葉クンも、じゃれ合う程度の攻撃で暫くの間だらだらと試合を続けていた。
願わくば、このまま何事もなく終わってくれますように……。
だが師範はそれを許さなかった。
「……真面目にやれ!」
身が強張るような渇。
威圧感が凄いんだ、ボクたちは気圧されるように攻撃に力を込めていく。
試合が激しさを増してくにつれて、ボクと千葉クンの差は歴然となる。
組手慣れしてない千葉クンはスタミナ切れでもうヨタヨタだ。
「そこまで!」
勝敗が目に見えたところで、師範は試合を止める。
千葉クンは、勝敗を告げられると無言で去っていった。
大人になった今なら、千葉クンの不安をなんとなくだけど察することができる。
こんな場所に連れてこられ、師範の監視の下、試合をさせられることがどんなことか……。
素人の千葉クンを、ボクと師範で攻める理不尽な試合だった。
ちっとも嬉しくない、こんな味の悪い試合は初めてだ。
ボクは試合のことを誰にも話さなかった。
虐めは途端に止んだ。
千葉クンはボクへ拳を振るうことはなくなったけど、日常会話を振ってきた。
最初は余所余所しく、
次第に馴れ馴れしく、
気がついたら、ボクらは友達だった。
8歳の夏、ボクはボーイスカウトに入隊した。
そこではハイキングとか、登山とか、ゴミ拾いとかいろんな活動をした。
かったるいな〜と思ったことはあるけれど、それでも楽しかった。
同じ隊に千葉クンがいたからだ。
ボクと千葉クンの親は騒動の後、面識ができたらしい。
お父さんはコミュニケーション能力が低いボクを、人気者な千葉クンと同じ訓練をさせようとした。
父の目論見通り、ボクは少しずつマシな人付き合いができるようになっていった。
その冬。
ボクらはボーイスカウト主催のスキー合宿に参加した。
ボクの班は千葉君とその他三人、みんな良い友達だったけど相変わらず名前は覚えられなかった。
交通手段は隊長のジープ、日が昇る前から延々と高速をひた走る。
朝焼けが差し込む頃、暇を持て余したボクらは肉詰めの車内でトランプを回した。
何本目かのトンネルを抜けると、一面の銀世界が開ける。
何でもない雪景色を、みんなして喜んだ。
パーキングエリアではひとときの雪合戦、千葉クンの投げる玉は殺人的な破壊力を秘めていた。ボクといえば、股間を一撃で射貫くスナイパー。
スキー場について、やっと滑れる! と思いきや。
ボクらを待ち受けていたの地味な基礎練習。
スキー板の履き方とか、脱ぎ方とか、転び方などレッスンを受ける。
板を履いているのに、滑った距離よりも歩いた距離の方が遙かに多い。
基礎ができないとスキーは大変危険なスポーツなんだけど、それを理解するにはまだ幼くて、リフトに添ってカニ登りをさせられたときなんて、そりゃもう拷問でも受けてるような気分。
日が沈み、体が鉛のように重くなった頃、ボクらは一日の疲れを洗い流そうと湯に向かった。
しかし、ボクは股間の逸物をどう隠そうか悩み、疲れをとるどころじゃない。結局、タオルでガードすることにした。まったくこの頃のボクは解決力に欠ける。時間をずらすとか仮病をつかうとか女湯に逃げるという発想はなかった。
脱衣所ではゆっくり脱ぐ、見られる危険が経るし……なにより観察することに集中できる。
全員が浴室に入ったのを確認してから、下着を脱いだ。
浴室の入り口付近には、それとなく待ち構えていた四人組。
でかいな……、とは言われなかったけど。
ボクのソレがタオルの隙間から目に入ると、口数が減って明らかに雰囲気が変わっていった。
均衡を破ったのは、偶然を装ってボクのソレに触れた仲間の一人、真性包茎クン。
「なぁなぁ、ハルキのやつ硬くなってない?」
千葉は告げ口を受けると待ってました! といわんばかりに新しいオモチャで遊ぶようなムードを構築していった。この手にかけては天才的としかいいようがない。
ボクは恥ずかしさでいっぱいになり、股間を強く抑えるも、それが勃起を引き起こさせる。
ボクはう〜う〜唸って、湯船に肩まで浸ってそれを隠した。
みんなは自然を装って湯船に入ってくる。
逃げ道のない場所へ逃げ込んでしまったと気づいたときにはもう遅かった。
浴槽の角に追いやられ、千葉クンと真性クンに脇を固められた。
残りの二人は視界を防ぐ壁となり、片方は傍観、もう片方は見張りを決め込んでいた。
あっという間に出来上がった浴槽レイプ陣形、お前等どこの部隊だ!?