初めまして。圭人といいます。
うまく書けるか自信ありませんが、自分のことを少し書いてみようと思います。
どうぞ宜しくお願いします。
中学3年の時の話です。
僕の住んでいるのは結構田舎で、のんびりとしたのどかな感じの、家の周りもほとんど田んぼや畑で、夜になると真っ暗になってしまうような所です。
場所によっては携帯電話の電波も届かないような有様で、なのでなのか、中学生では携帯電話を持っている人はほとんどいなくて、僕の学校でも持っている人は数人しかいませんでした。
もちろん僕も持っていなくて、当時は家にパソコンもなかったのでネットなんかも出来ないし、性に関しての情報源はほとんどなくて、保健体育の教科書とマンガかテレビくらいでしか得られず、部活の方に精を出し過ぎていたせいか、セックスは当然、オナニーでさえ全く無縁な、かなり性に関しては疎いというか、無知でピュア?な中学生でした。
それが、ある友達のおかげで性に目覚めてしまいました。
それは6月の雨の土曜日でした。
陸上部の僕は、本来なら午前授業が終って部活の予定だったのですが、その日はあいにくの雨でグラウンドが使えませんでした。少しくらいの雨ならロードワークをするんですけど結構な雨だったのでそれも出来なくて、それなら室内練習をと思ったんですが、先生方の研究発表会みたいなものが行われるとかで、校舎内での運動部のトレーニング(雨の日にはグラウンドが使えない運動部が校舎のいたるところで走ったり筋トレしたりするから騒がしいんです)厳禁と言われていて断念し、体育館と校舎を結ぶ渡り廊下も既に野球部に占拠されていたので、仕方なく僕の部長権限で部活は中止にして解散となりました。
せっかくウェアに着替えて集合したのに残念でしたが、他にがっかりしている部員はいなくて、みんな「やったー」ってあからさまに喜んでました。そういうゆるい部活なんです。
僕は部室で、後輩が親戚から大量に送られてきたとかでおすそ分けに持ってきてくれたサクランボを食べながら、ひとり居残って日誌を書くと、それから着替えて部室を後にしました。
雨の降る中、グラウンド隅にある部室長屋から、傘差して自転車置き場に向かって歩いていると、後ろから「ケイ!」と聞き覚えのある声がしました。
僕は圭人(ケイト)という名前の響きが女の子みたいですごく嫌で、子供の頃から周りの友達には名字で呼んでもらっていたんですが、そいつは僕のことをケイって呼ぶのですぐに分かりました。
続けて「ケイ、待って!」と声がするので、仕方なく立ち止まって振り返ると、マサキ(仮)が部室長屋から傘を差さずに走ってくるところでした。
マサキは1年の2学期に転校してきたのですが、ちょっと小柄だけど運動神経バツグンの(その分、勉強はあんまりだけど)サッカー少年で、性格も明るく陽気でめちゃ爽やかな、まるでマンガの主人公みたいな奴で、基本誰にも優しいし、だからすぐにクラスにも馴染んで打ち解けていました。
というか、もう2年になる頃には学校でも人気者になっていて、バレンタインとかすごかったみたいです。
それというのも性格の良さもあるけれど、やはり見た目の良さにあるんだろうと思われます。
顔は小っちゃいくせに目はクリクリと大きくて、まつげが長く、アヒル口(本人はすごいコンプレックスだったみたいですが)で、アイドルみたいなんです。
さらさらの髪の毛も色素が薄いみたいで少し栗色がかっていて、「ハーフって言われても信じちゃいそうな感じ」とクラスの女子から言わせると欠点を挙げるのが難しいような存在なんです。
僕から言わせてもらえればいくつもあって、一つ挙げるとすれば、調子に乗り過ぎてすぐ羽目を外してしまうところでしょうか。そうなると歯止めが効かなくて、行くところまで行っちゃうという厄介者。
でもみんなアイドルみたいなマサキのやることには甘くて、大抵は大目に見られていました。
それが僕にはまた少し腹立たしくて、よく叱っていました。
というのもマサキは、授業中よく寝てるし、休み時間にサッカーに夢中になって授業に平気で遅れるし、忘れ物は多いしで、学生としてはかなり欠点が多いはずなのに「しょうがねえな、もうするなよ」くらいでいつも許されていて、1年の時、僕はクラス委員だったこともあって、そんなマサキを注意する係みたいになっていたから、ついそれ以降も叱ってしまうんです。
あと、クラスで一人だけ特別扱いされてるみたいな雰囲気が嫌いだったこともあると思います。
いや、やっかみとかでは決してなくてです。
僕にも小学校時代に周りからちやほやされた時期があって、その雰囲気がいかに不健全なものか身をもって体験していたので。
結局そのうちブームが過ぎて、やっかみから孤立しかかった僕は人と接するのが怖くなって、人と一定の距離をとることを覚えました。
もちろんマサキがそうなるってことはまずないと思うけど、みんなでちやほやするのはやっぱり変だし、マサキにはなんでか叱りやすかったので叱ってばかりいました。
で、そうなると叱られる方は叱る方をうっとうしいと思って敬遠するものだと思ったんですけれどそうはならなくて、なぜか妙に仲良くなりました。本人も一人だけ特別扱いみたいな雰囲気が嫌いだったみたいです。
1年の時、授業中にお菓子を隠れて食べている人たちが学校一の鬼教師に見つかって怒られているところ、マサキは運良く見つからなかっただけなのですが、手を挙げて「僕も食べました」と名乗り出たことがありました。
すると、いつもなら授業が終るまで長々と説教が続くうえ、その後で呼び出して更に説教するのに、明らかに先生の怒るテンションが下がって、名乗り出るのは偉いとかなんだかうやむやな感じで説教も終ってしまいました。
授業後、共犯の生徒から「助かったよ」と感謝される中をすり抜け、僕のそばまで来たマサキは「エラい?」って自慢げに聞いてきたので、僕はホントは名乗り出るなんて偉いなあと感心していたんですが「バカ、授業中にお菓子なんか食べちゃダメだろ!」と叱りました。すると、なんだか嬉しそうに「だよなあ」と頭を掻いていました。それから「ごめん」って。
そのことから考えると、マサキはマサキでちゃんと叱ってくれる人を欲していたのかもしれません。
マサキを叱るのは僕の役目になりました。
だから雨の中を傘を差さずに走って来るマサキにも叱ります。
「なんで傘差さないんだよ。風邪ひくぞ!」
だけどマサキはニコニコ顔で僕の傘に飛び込んできます。
「傘置いてきちった、入れて」
このニコニコ顔で大半の人が負けます。僕も半分負けます。
「陸上部も部活休み? 帰るんだろ? 一緒に帰ろうぜ」
もう傘の中に身体をねじ込んで来ているので追い出す訳にもいかず、だけど雨なのに傘を置いてくるってありえないだろうと叱りたくなるんです。
「部室にあるだろ置き傘くらい。雨すごいから、これじゃ濡れちゃうよ」
「平気だよ、くっつけば濡れないって」
とマサキは身体を寄せてきます。お互いに半袖のシャツだったので、マサキの雨に濡れた腕が僕の腕にベタっと触れてドキッとしました。
「くっつくなよー!」
僕はめったに出さない大声を出してしまい自分でもびっくりしてしまいました。
「もーベタベタするし、出てってくれよ」
それでもマサキは全くひるむことなく更に身体を寄せてくると、僕の手の上から傘の柄を掴んできました。