狭い傘の中での押しあいは続きました。
お互いに押し出されるたび、肩が雨で濡れていきます。
マサキは依然粘って、二人の共通項を並べて仲間意識を主張してきます。
「3年間同じクラスの仲じゃんか!」
確かに3年間同じクラスでした。
マサキはなにかとそのことを口にします。
5クラスある中で3年間同じクラスになる確率がどの程度のものなのか僕にはよく分かりませんが、マサキは2年になった時も3年になった時も喜んでいました。
2年から3年はクラス替えないのにです。
「同じ部長の仲じゃんか!」
僕は陸上部、マサキはサッカー部の部長でした。
こんなのが部長でホントにサッカー部は大丈夫なのかと心配にもなるんだけれど、持ち前の人気と、サッカーに関しては誰よりも真剣で意外と努力家なんだと他の部員から耳にしました。
それにめちゃくちゃうまいんだそうです。高校も推薦で強豪校に行くんじゃないかという噂です。
「同じチャイロの飼い主だろ?」
部室長屋に時々ふらりとやってきてはみんなに可愛がられている野良猫の名前です。
みんな好き勝手な名前を付けて呼んでいて、ノラとか、ミーとか、ノリカとか(これは野球部の奴が好きな子の名前を付けたらしい)何十通りかあるんですが、僕は茶色いからチャイロって呼んでいて、そしたらマサキもチャイロって呼んでることが発覚して二人で驚いたっていうことなんです。
「スピッツ好きな仲だろ?」
二人共「チェリー」って歌が好きで、一緒にクラスの仲間とカラオケに行った時に、マイクの取り合いになったことがありました。
マサキは歌もめちゃくちゃうまくて、なんかムカついてそれ以来一緒には行ってません。
そんなふうに共通項を挙げ連ねながら押し合っているうちに、自転車置き場まであと少しという距離まで来てしまいました。
いつも一緒にいるとマサキのペースに飲まれてしまいます。
マサキは共通項を思いつかなくなったのか静かになりました。
そこで気を抜いた僕がバカでした。
マサキは傘を差す僕の方をちらちら見上げてきます。
そこで不審がるべきでした。
マサキは突然、僕の傘を差している手を掴んで下から持ち上げたんです。
僕は思い切り片手でバンザイするみたいになって傘が高く持ち上がります。
「脇チェック!」
とマサキは得意顔で僕のシャツの開いた袖口から脇の下を覗き込んできました。