やられた! と僕は途端に悔しくなりました。
マサキは、半袖のYシャツやTシャツを着ている時に、油断していると脇を覗き込むというゲームを発明しました。
どうしようもないアホなゲームなんですが、これがやられるとものすごく悔しくて、覗かれないように阻止するのに必死になってしまうんです。まんまとマサキのペースにはめられてるわけですが。
「よし、まだ脇毛生えてないな」
マサキはほっとした顔でにんまりしています。
僕は腕を降ろしながら呆れてマサキを睨みつけます。
「変態、やめろよ」
「まだまだ脇が甘いな。油断がある」
マサキはケラケラ笑います。
「フツー脇なんて覗かれないから、そうそう身構えてられないっての。てか3年なんだからそろそろ辞めたら? 他の奴とかなんも言わんの?」
「俺、他の奴にはやらないし。ケイだけだから、するの」
僕はかなりの人間がこのゲームの犠牲になっているものと思っていたので驚いて、信じられない気分になりました。
「なにそれ? え、そうなの? 知らなかった…僕だけ? 心外だ」
マサキはケラケラ笑って「いやケイには負けらんないからね」と言いました。
それから自分の腕を持ち上げて、ツルツルの脇の下を見せつけると宣言しました。
「わるいけど、俺たぶんもうすぐ生えるよ」
なんだそれって思いましたけど、マサキにはなにやら秘策があるようで不敵な笑みを浮かべていました。
このやりとりには理由があって、二人して中3になってもまだ脇毛が生えていなくて、どちらが先に生えるかとマサキだけが競争心にめらめらと火をつけていたんです。
それというのも4月のことです。
マサキが深刻な顔をして僕のところにやってきて言ったんです。
「大変な事実が分かった。」
「何?」
「運動部の部長で、まだ脇に毛が生えてないの、俺とケイだけだ」
僕はそれを聴いた時、冗談を言ってるのかと思いましたがマサキはいたって本気で、
「これは部長の威厳にかかわる重大な問題だ」と言ってのけました。
どうやって調査したのかはバカらしくて聴きませんでしたが、おそらく身体測定の時にでもチェックしていたのでしょう。
マサキも僕も体毛が薄くて、腕も足もひげもちっとも生えてないくらいなので、脇もたぶん時間かかるんじゃないかと思っていて、僕は別にそのうち生えてくるよと気楽なものでしたが、マサキは変なことにこだわるたちなんです。
マサキは「いや、夏までにはなんとかしなくては部長の威厳が」と言って僕に勝負を持ちかけてきました。
夏にはプールの授業があるんですよね。
僕が「文化部はどうなんだよ?」と聴くと、
それには「ケイはデリカシーがないんだな。女子にそんなこと確認出来るかよ。だけど宮尾君はすごかった」と物知り顔です。
確かに文化部の部長は女子ばかりで、唯一男子で部長の宮尾君は化学部で、毛深すぎてあだ名が原人になったくらいの人です。
あれは実験中の事故で毛深くなったんだなんていう根も葉もない噂があるくらいです。
いやまさか、マサキは宮尾君から変な薬でも手に入れたんじゃないだろうなと僕は勘ぐりました。