しばらく抱きしめ泣きあっていたのだが、ふと体を起こすと、「ごめん…なさい…浴衣が鼻水だらけになっちゃいました。」と、気まずそうに、でも僅かにはにかんで笑いながらそう言った。
「大丈夫だよ、寝るときはパンツ一丁と決めている。浴衣は椅子にでもかけて乾かしておけば良いよ。」そう言うと浴衣を脱いで椅子に掛けた。
「でも、思ったより濡れてるな。もしかして顔からションベン漏らしたのか?」とからかうと、「我慢できませんでした。」と言ったので頭をクシャクシャともんで笑いあった。
ただその時、私の右手にはバサバサになった毛先と、毛根部に引っかかる何かと、そして何度も洗ったはずの髪にひつこくこびりつく臭いの移り香の触感があった。
「明日は早くに起きて、風呂に入ってから朝飯にして、それからこの近くの神社にいく。1日中動き回るからもう寝よう。」
「わかりました。明日は僕は何をしたら良いですか?」
「何って、僕の助手だろ?しっかり後から着いて来な。」そう言いながら部屋の明かりを切ると私は布団に入った。
「わかりました」と言うと、浴衣を脱いでそれをもう一つの椅子に掛けると、彼も自分のベッドに入った。
「明日からよろしくお願いします。おやすみなさい。」そう言うと彼は布団に包まった。
相当疲れていたのだろう。
数分後には彼は死んだ様に眠った。
私は彼が寝たのを確認して、明日の祈祷や奉納の為の準備を行った。
とても静かなため、本当に死んでいるのではと、何度か横のベッドを覗いたが彼は布団と枕を堪能して幸せそうに寝ていた。
スー…スー…と微かに繰り返される寝息は、まだあどけない16歳の少年そのものであった。
日が変わる頃には粗方の準備が整ったため、私も就寝した。