4つ目の社に着いた頃にはもう夕陽が赤らいでいた。
満身創痍の隼は私が祈祷している際には倒れ込んで死んだ様に休んでいる。それでもリュックだけは意地でも背負い続けている。
「これが今日最後の下りだ。明日の予定はない。休みなので焦る必要はない。ただただ一歩一歩を大切にして、最期まで気を引き締めて行こう。」
隼は「はい!」と頷きながらリュックを背負った。
暫く下りると辺りは暗くて山道の凸凹は見え辛くなった。
岩肌はなくなり少し舗装された階段が現れ私も少し気を緩めてしまっていた。
「もう少しですかね。」足場が頑丈になった事で隼も終わりが近い事を悟っていたのだろう。
『ザザザザザッ』
突然に私の後方から大きな音が聞こえた。
「隼、大丈夫かっ!」後ろを振り向き山側にそう問い掛けた。
暗がりの中こら「大丈夫でーす。少し滑っちゃいましたー。」と元気そうな声が返ってきた。声色は元気なのだが足を滑らせたにしてはかなりな音がしたため、隼の安否を確かめずにはいられなかった。
20m程度山道を引き返すと隼がまだ転けたままの状態だった。
「大丈夫か」と近づくと「すいません、最後の最後でヘマしちゃいましたね。僕は本当にダメだな。」
そう言いながら起きあがろうとすると右足を庇う様にして動きが鈍くなった。
「本当に大丈夫か?怪我してないか?本当のことをいってくれよ?」心配している事が声色で伝わったようだ。
「すいません、ホント言うと足を挫いちゃったみたいで…。」申し訳なさげにそう呟いた。
「歩けそうか?」と聞くと「大丈夫です」とは答えるものの、歩くたびに「うぅ…っ…」と声を殺している。
私は隼のリュックを手にすると荷を前に背負った。代わりに隼にバッグを背負わせると隼を背負う。
「大丈夫です、歩けます。」と言うが薄暗い中でも隼の顔が痛みで歪んでいる事はわかった。
「無理をせんでもいい。隼は軽いから別にどうって事ない。」そう言うと私は再び下山を開始した。
荷重があり少しバランスを崩しながらも慎重に歩いていく。隼は「大丈夫です。」「歩けます。」「歩きます。」と、数m進むたびに私に話しかけていた。
私が隼の偽りを無視して歩き続けると「す…すいません…」と抵抗する事を諦めてそう呟いた。
「無理をするな。本当はどうなんだ?」足を一瞬止めてそう尋ねると「実は右の足首が痛くて…すいません…」と俺の右耳の後ろで呟く。
「そうだろう、隼は俺に嘘をつくのか?」と聞くと「今日は勇人さんに迷惑をかけずに1日を終えたかったから…すいません…」と愚図りながら答えた。
階段を降り切る頃には山麓の道も既に暗闇だった。
無事に2人で降りれた事を感謝した。
隼にその場にいる様に伝えると、曇った空から時折見える月明かりを頼りに山ひとつ先にある車を駐車した場所まで戻ることができた。
汗と土埃で体中がベトベトだったが、車を走らせ隼の元へと急いだ。