こうして俺たち2人(プラス女子3人)は□□高校に通うことになった。
中学校を無事に卒業し、高校の入学式も済んだ。そのあとにクラス発表があったのだが……
「アキちゃん一緒のクラスじゃん。やったね」
「ちゃん付けすんな!えぇ!またおまえと一緒!?」
「うれしいくせして」
「だれが!」
そう言うと、そいつは俺の頭をわしゃわしゃとなでてきた。もうやめろと手を払いのけるのも面倒になって、されるがままに放っておいた。
最近になってこいつの対処法がわかってきたというか、いちいちこいつの行動に対して反応していたら付け上がるばかりで(放っておいてもつけあがるのだが)、最近では放っておくことにしたのだ。
こいつはこんなやつなのだ。調子ノリで冗談が90%、いちいちリアクションしていたらこちらの身がもたない。
こうしてクラス発表も終わり、いよいよ一学期が始まった。
高校生活にも慣れてきて、3ヶ月が過ぎた。
ようやくクラスメイトとも打ち解けてきて、休憩時間だとか騒がしくなりつつある時期である。
俺はその日、昨日徹夜をしてしまって一日中眠たかった。でも授業は真面目に受けるほうで、半目を開けながら授業を聞いていた。そして休憩時間のチャイムが鳴ると同時に机に頭をぶつけるようにして寝るのだ。
休憩時間になると決まってあいつが俺のところに来る。登校はいつも一緒で、そのときに「今日は眠い眠い」とあいつに話したはずなのに、性懲りもなく俺のところに来て、前の席の椅子に、背凭れを前にして腰掛け、俺にちょっかいを出してくるのだ。
「なあ、アキー遊ぼうぜー」
「……おまえはガキか。朝から眠たいって言ってるだろ。寝かせてくれよ」
俺は顔を伏せたままそいつに向かって話した。
「俺が目覚めさせてやるから」
「……」
「ヒマだよー、話し相手になってよー」
「ウザい」
「そんなこと言われたってへこたれないぞ」
「すこしはへこたれろよ」
俺の言葉でそいつが笑うのが気配で感じ取れた。俺はすこしも面白いことを言ったつもりはない。
「なあー明宏ー……」
そのとき、教室の向こう側からそいつの名前を呼ぶ声がした。
「ほら呼ばれてるぞ。人気者だなあ、さっさと向こう行けよ」
「わかったよ。でも昼飯は一緒に食おうな!」
そう言って俺の前からそいつが席を立ってどこかに行くのを気配で感じた。
俺はようやく熟睡できるとほっとして、体勢を直して本格的に眠ろうと試みた。
だが、邪魔者は次から次へと現れる。
俺のすぐ脇に誰かが立ち止まったのを気配で感じた。
「あのう、澤田くん」
「ああ?」
俺は眠りの妨害をされてすこし苛立った口調で上体を起こし、声のしたほうを見上げた。そこに立っていたのは、クラスメイトの女子だった。しかももう派閥を形成しているのか、3人連れで立っていた。予想もしない人物に思わず驚いた。
「ごめん、どうした?」
「いや、あのね、澤田くんって二宮(ニノミヤ)くんと仲がいいよねえって話してて、それで……」
「ああ、べつに仲がいいわけじゃないよ。」
「え、でも……」
真ん中の女の子はやけにもじもじしていた。女の子らしい態度だった。すると助け舟をだすように、横の気の強そうな女の子が言った。
「なんで二宮くんとそんな仲がいいの?」
「なんでって、なんでだろう、幼稚園から知ってるからかなあ」
するともう一人の女の子が
「ねえ、二宮くんってどんな子?」
と聞いてくる。
「どんな子って……見ての通り、なんじゃない?」
本当はいっぱい言いたかったが、俺には悪い印象しかなかった。調子者で調子ノリで人をからかうだけからかって、冗談がほとんど……とてもそんなことは言えない、事実、俺のところに来た女子は、あいつに好感をもっているようだし、口が裂けてもそんなことはいえない。
しばらく黙っていると、さきほどの女の子がぼそりと言った。
「二宮くんって格好いいよねえ」
「ええ!?」
俺はびっくりしてつい声を張り上げてしまった。その声であいつの方を向いていた女子が一斉に俺に視線を向けた。
「どうしたの?格好良くないの?」
「いや、格好いい格好よくないはそれぞれの見方だから、いいんじゃない?」
俺は苦笑してあいつの印象を壊さないよう努めた……なんて心優しい友人だろうと自分で関心する。
すると女の子からとんでもないあいつの性格が返ってきた。
「クールだよね。なんか大人っぽい。」
(いやいやいや、それはないでしょ)俺は突っ込みたかったけど口を閉ざしたままだった。ただ一言だけ
「でもあいつ、冗談ばかりだよ?」
「結構二宮くんの冗談ってセンスあるよねえ。笑えるもん」
(ははあ、こりゃ何を言っても無駄だ)俺はもうそう悟ってなにも言わなかった。
女子と一緒に、俺も、最近話すようになったほかの男友達と会話を楽しんでいるあいつを遠目でながめた。
二宮大史(ニノミヤタイシ)それがあいつの名前だった。幼稚園の幼いころからあいつと一緒にいるから、格好いいだとかその逆もまったく思ったことがなかった。幼稚園のころはいかにも幼稚園児で童顔だったけど、たしかにそう言われて改めてあいつを見ると、目鼻立ちも整っていて、ブサイクでないことはたしかだった。顔もいつのまにやら童顔ではなくなっているし。ていうか、前々からあいつがモテることは知っていた、というか気にも留めなかったので、知らないも同然だったが、今回初めて気づかされた。中学校のころから女子の注目を浴びていたし、告白されたことも何度かあったようななかったような……。でも実際に付き合ったっていうのは聞いたことがなかった。
いつも俺と話してるときはでれでれとした口調なのに、こうしてあいつがほかの人と会話をしているのを聞いてると、不思議なことにクールな印象を受ける。あの始終笑顔を含んだ表情も女の子を魅了するんだろうなあ、なんて思いながら眺めていた。
にしても気のせいだろうか、俺と会話をしているときと、ほかの人と会話をしているとき、態度も含め、会話の内容だとか話し方も違う気がする。それを感じると軽んじられているような気がして、すこしムッときた。