昼過ぎから地鎮祭が執り行われる事になっていたため、奥さんが押し寿司を振る舞って下さった。
大きさの割にかなりのボリューム感があり、私は2つ、隼は3つほど頂いた。
「いくらでも食べて頂戴ね」と奥さんは仰るが「もう充分です」と言うと残念そうにしていた。
隼が「でも本当に美味しかったです。おばさん、ありがとうございます。」と言うと笑顔に戻った。
食後にお茶をいただいた後、袴のまま2人で車に乗ると現場へと向かった。
鼻歌で初心LOVEを歌っている隼、目尻が下がって上機嫌。理由を聞くと私と同じ様に袴を着れた事がとても嬉しかった様だ。
今後は私の仕事を更に手伝える…と喜んでいる隼に釘を指した。
「神主の修行をしていない隼は祭祀には携われない。祭祀に携わられると神様にも祈祷されている方々にも失礼にあたる。手伝えるのは準備と片付けだけだ。そこは分別をつけておく様にね。」
「そうですよね、なんか気持ちだけ昂ってしまって、すいませんでした。そうですよね、わかりました。」隼は項垂れて残念そうだった。
「それと、袴を着ているという事は、他者から見れば私と同じ神官だ。言葉遣いや所作も注意してもらわないといけない。わかるかな?」
畏まった口調で隼に話すと、隼も背筋を少し伸ばして「はい、わかりました。」と、滑舌良く返答した。
国道沿いの整地された広い土地に到着。
地鎮祭には地元の企業や土建屋が集まっており、直前には市議会議員も参列した。
私が○○神社の宮司が体調不良のため代わりに来たことを伝えると歓迎はされた。
しかし突然現れた見慣れない30代の若造と10代のガキを目の当たりにして斜に構えてこちらを見ながらヒソヒソと話していた。
そんな目を横目に私の指示の下、祭具の準備をした後、祭祀の間は後方にて待機していた。
祭祀を終えると何事もなかった様に解散、散会し、すぐさま土建屋の重機が入ってきた。
私は隼と祭壇を片付けると元の神社に戻った。
「スーツを着た大人が沢山でしたね。最前列のおじいさんは全員にペコペコされて上機嫌でしたね。」
「さっきまでの隼みたいにか?」
「もぅ…ごめんなさい。でもあんな感じの人にはなりたくないな。勇人さんだけはペコペコしていなかったですけど、なんでなんですか?」
何とも返答しにくい質問を投げかけてくる。
少し考えた後、「それは…俺が部外者だからじゃないかな?」とやや困った様に答えた。
「それはこの土地の人じゃないからってことですか?宮司さんの代わりに来ただけだからということですか?」
更に隼は難しい質問をしてくる。
「そういうことじゃない。さっきも私は宮司としてきちんと神事を執行しただろ?」
「はい。」
「うーん…難しい話になる。これはまた今度話をしよう。
それよりも問題は夕方から来るお祓いの方が心配なんだが、隼に乗り移られても敵わないので、檀家さんが来る頃になったら車の中で待機しておいてくれ。」
そう伝えると『乗り移る』という言葉に少し緊張して「わかりました」と言った。