神社に戻って暫くすると神社の前に車が止まった。
隼に裏口から出て車で待機する様に伝えると信者さんを出迎えた。
両親に連れられて20歳位の女性が降りてきた。
挨拶を行った後、神主さんの代わりにお祓いを行うことを伝えると両親は深々と頭を下げたが女性は目を合わそうとはせずふてぶてしい態度であった。
いざ神殿へと案内し鳥居をくぐるとなると状況は一変する。
「ここは嫌だ、入りたくない。」などと拒む女性の声は徐々に低く変わり、「辞めろ…」の後の言葉は男性の様な低い声へと変わり、内容も聞き取れなくなり神社の聖域に入ることを全身を使って拒否をする。
両親を振り払うかの様に暴れる女性を清めた水を潜らせた藁縄で括り印を結ぶと、押さえ込んでいる両親と共に罵声を浴びせてくる女性を神殿の中に連れ込んだ。
祈祷は2時間にも及び、終わる頃には辺りは真っ暗だった。
いわゆる『狐』は払い終え、表情がなくなった娘は泣きじゃくる両親と共に帰って行った。
私と隼が母屋に戻ると奥さんが風呂を沸かしてくれていた。汗だくの私はありがたく頂戴した。
身体を洗う私に湯船に浸かる隼が「さっきのは何なんですか?」と聞いてきた。
いわゆる『狐に憑かれた』女性に出ていく様にお祓いをしたんだよ。
世に言う精神病と診断されている人の中には、狐に取り憑かれた人も一部いるんだ。キリスト教でいう所の『悪魔』ってのと同じだ。おそらく彼女は優しい魂を持つ人なんだろう。そんな人が取り憑かれやすいんだ。」
頭を洗いながら話すととても驚いた様で固まっていた。
「僕…袴を貰っただけで僕も神官の仕事がしたい…って思ったんですが、そんな甘いものじゃないんですね。」と、神妙は面持ちで言った。
「隼、ありがとう。そんな風に思ってくれていたんだね。昼間は浮かれていたみたいだから少しキツい事を言ってしまったけど、隼がこの仕事に関心を寄せてくれていることはとても嬉しい。またこの仕事のことや所作なんかも少しずつ伝えて行けたら良いな。でも俺なんかじゃムリかもしれないけど…。」
そう言うと「それって僕を弟子に認めてくれたってことですよね?」と湯船から乗り出す勢いで顔を近づけてきた。
「それは嬉しいけど…まだ見習いかな。神官になるにはその前に修行もしないといけないし。」少し困った様に話すと「じゃあ弟子って事は認めてくれるんですね?」と笑顔で聞いてくるので笑顔で「いいよ」と言うと「ありがとうございます」と言いながら湯船を出て私の頭と背中を鼻歌まじりで洗ってくれた。