皆さん返事ありがとうございます。励みになります。もうNo.10になったのにまだエッチな部分にたどりつかないなんて、ホント申し訳ないっす。あと3話くらいまでには入る、かな?もう少しのお付き合いをお願いします。
俺は大史の家に向かった。会いたいと思い出したらいてもたってもいられなくて、家を出て、走って向かった。家を出たのは夕方くらいだったので、日中よりかは幾分気温も下がって、夏の焼けるような日差しも和らいでいた。
大史の家までは走って10分くらいでついた。さすがにここまで走ってくると息も乱れて肩が上下した。玄関先である程度息を整えると、なぜか普段よりも緊張する指でインターホンを押した。インターホンが鳴ったと同時に家の中から「はーい」という声が聞こえてきた。それが大史のお母さんの声であることはすぐにわかった。俺は門扉をくぐって、玄関のドアで待った。するとすぐにドアが開いて、おばさんが顔を出した。
「あら、あきちゃん、久しぶりね」
そう言われて、たしかに大史のお母さんと会うのは久しぶりだと思った。相変わらず変わりなく、きれいなお母さんだった。美しい輪郭や二重の目は大史そっくりだった。
「お久しぶりです。おばさん大史、いる?」
「あれ? 大史からなにも聞いていないの?大史は今合宿中なのよ。サッカーの」
おばさんの回答に、俺は大きくうなずいてしまった。そう、毎年大史は夏休みに入るとすぐ、サッカーの夏合宿に行ってしまう。会いたいときに会えないなんて最悪だった。
「いつ帰ってくるんですか?」
「そうねぇ、8月の5日とか言ってたかしら。」
俺はそれを聞いて愕然とした。まだ2週間近くある。こんなに思うように事が進まなかったことはなく、歯がゆさが辛かった。そんな俺を見て、おばさんは言った。
「お茶でも一杯どう?本人はいないけど、上がってく?」
俺はその質問にうなずいた。大史の家にお邪魔になってすぐ、
「大史の部屋にいってもいいですか?」
と聞いた。するとおばさんも、
「いいわよ。べつにあの子もあきちゃんに見られて困るような物は置いてないだろうし」
と言ってすんなり許可してくれた。普通なら本人がいないのに絶対に無理だろうが、やはりここは長年の友達だからということだろう。
俺は階段を上がって大史の部屋に向かった。ドアを開けて大史の部屋に入る。その瞬間、大史の香りがした。そう、大史はほかの人と違った香りがするのだ。なんだか洗剤のような、甘いけどしつこくなくて、さわやかなんだけど鼻に突き刺さるような感覚はなくて――と言葉では表しにくい、でも落ちつく、いい香りだった。
大史の部屋を見わたして最初に思ったのは、相変わらず変わりばえのしない部屋だなということだった。長いこと大史の家を訪れてなかったけど、最後に来たときからほとんど変わっていないように思えた。
大史の机、本棚、ベッド、背の低いタンス。よく見慣れたものだった。そのそれぞれを眺めていると、タンスの上に飾っている写真に目が留まった。写真立てを持ってじっくりと眺めた。その写真は中学の卒業式のとき、大史と俺の二人だけで写った写真だった。一本のカーネーションをそれぞれ持って、肩組をして写っていた。中学の卒業式がついこの前のようだ。
その写真を眺めていると、中学でのいろんなことを思い出した。特に思い出したのは、大史の人気ぶりだった。前にも書いたと思うが、大史の太陽のようなポジティブさは、周りの人を本当に元気にする。だから男女問わず大史の周りには人が集まるのだ。それは存在を知ってもらいたい人、友達になりたい人さまざまだったけど、それにも増して恋人になりたい人も多かった。俺も立ち会わされた告白場面もあったが、大史はその誘いをことごとく断ってきていたのだ。
(それはもしかして俺を想ってくれていたからだろうか)
なんてその写真を見ながら考えていた……というか、俺はうぬぼれすぎだ。もう大史が俺のことを好きでいてくれているなんて思ってる。キスの一件以来――いや、俺が彼女と付き合いだして以来、大史はもう俺のことを好きじゃないかもしれない。なんだか大史が俺のことを好きという前提で事は進んでしまっているけど、それは確実ではないのだ。だからこそ「今」会いたかった。気が変わらないうちに会いたかった。人の気は明日にでも、いやこの一秒一秒にでも変わってしまう可能性は充分にあるのだ。そう思うと一人焦っていた。
そのとき、横から笑い声がした。
「ああ、その写真……大史ってほんとあきちゃんのことが大好きよねぇ、学校の話題って言ったらあきちゃんの話題しかないもの」
おばさんは声を出して笑っていた。
「なんなら、うちの子と付き合う?」
おばさんはこんな冗談をやすやすと言ってのける人なのだ。俺は冗談だとわかっていながらもなんだか慌てた。
「おばさん!」
「うそうそ。」
「……冗談はよしてくださいよね」
そういうとおばさんは笑っていた。
おばさんは俺にお茶の入ったグラスをわたしてくれた。俺はそれを一口飲んだ。とても冷えていて美味しかった。
すこし改まって、おばさんがいった。
「あきちゃん、大史となにかあったでしょ?」
「なにかって?」
「喧嘩でもしたんでしょ?」
俺はなにも言えなかった。
「なぜって大史の口数が減ったもの。あなた以外の話題ってないのかしらね」
「大史は、家でどんなでしたか?」
「べつになにもないわよ。平然としていたけど、話題がないのか口数はたしかに減っていたわね」
「そうですか……」
部屋が静まり返った。俺はそれを紛らすように、残ったお茶をぐっと一気に飲み干した。
「今日はありがとうございます」
「大史に今日あなたがきたこと、伝えとこうか?」
「いえ、またあいつが帰ってきたら伺いますので、いいです。あいつが変なことを考えて練習や試合に支障をきたしたらいやですから」
「そうね。また遊びにきてね。大史がいなくても」
「そうですね。じゃあ、お邪魔しました」
そう言って、大史の部屋を出て、家を後にした。