四月に桜が咲くなんて、誰が言ったのだろう。
桜が舞う輝きに充ちた中学や高校の入学式。
一度でいいからそういうの体験してみたかった。
僕は桜が好きだから、、、
4月13日。
凄まじい突風と猛吹雪が吹き荒れた。
都心ですら、最高風速29`を記録していたのだから、外れはもっとすごい事になっていただろう。
休みが一日ズレてれば直撃する事はなかったのに。俺は歩く事もままならぬくらいの気候を掻き分けて出社していた。
春風のトップ乱気流。
新しいシーズンの到来を予兆していた。
実はつい先だって、会社を所々休んでいた。
ズル休みではない。
体調、というよりも精神的な理由だったんだけど、まぁまぁ問題ないくらいにまで、戻ってきたんで出勤を入れた。
明日からにすれば良かったととも思ったけど、みんなに迷惑もかけているし、有給も大部分を消化してしまってるので、頑張る事に決めた。
自分の仕事は旅行代理店の窓口で、来店された方のパッケージツアーの説明や販売。航空券等の予約、センディング等の接客を担当している。
雑務ではCF件SF券の書き換え、回数券の貸出とか、株主優待券の買い付けとか他の代理店さんの普通にやっている辺りもこなしていた。
レアなケースでは、自社企画パッケージ旅行にツアコンみたいな感覚で、参加するというのもあって、卒業旅行の高校生とかお客さんとふれ合ったりした。(ふれあうというのは触る事ではないですよ笑っ)
自分はこの仕事が自分に合っているとつくづく感じる。
夫婦の旅行とか、女の子同士、男の子同士とか(うらやましい)、まぁどんな理由であれ、一緒に旅行する人達というのは、なんとも幸せそうで、微笑ましい。
そんな旅行者のお手伝いができるというは、幸せのお手伝いをしてるみたいで嬉しくなる。
去年担当したお客さんが今年は子供もできちゃって家族旅行します、なんてリピートはもうかる、、じゃなくて、ホント幸せなんだなって暖かくなる。
俺はこの日以来、忙しい日々に埋没していった。
ずっと停滞していた分を取り戻すかのように。
正直、一応FM(フィールドマネージャー係長)の役職は降ろさるかな、と思ったけど、特にそんな気配もないし、OM(オフィスマネージャー部長)からの扱いも変わらない。
一安心した。
まぁ出世には興味がないから問題ないけど。
俺、現場が好きだから。
でも最近になって、プライベートが仕事に響くという事を学習した。
前までは接客で沈んでいたり、イライラしている女子の態度を見ると、プロ意識がかけていると一瞥していたが、その自分が、同じ轍を踏む事になるとは思ってもみなかった。
尚人との事があって、ズタボロになって、ミスして、自分でもこんなに精神的に弱かったなんて、知らなかった。
上司しか知らないが、俺は軽鬱と診断されていた。あの次の日。
異変を知ったのは、朝、ベッドから出られなくなった時。
自分でも、自分の身に何が起きたか解らなかった。
俺は、祖母に電話をかけ、病院まで付き添ってもらった。
話を聞いて、失恋で鬱になる事は多いようだ。
先生によると、悪い事だけではなく、良い事であっても(結婚、出産、昇進、定年)環境の変化、心境のぶれ、一過性ストレスによって、突然起こるようだ。
失恋でもなる、と言われたからドキッとしたが、まさかこれが鬱だとは分からなかった。
先生には全て話して下さいね、と言われていたので、包み隠さず(ノンケとして)全て話した。
抗うつ薬の説明も受けたが、副作用の問題、やめるまでにも段階を踏まなければならない事などを加味すると、まだ様子をみた方がいいと話された。
それ以来、厳しい時は事務に電話をかけ、有給を申請し、何度か休みをもらった。
そして、休日には先生にカウンセリングをしてもらうようにした。
その効果もあり、日に日に堕ちていくというか、沈む感じはなくなってきた。でも、そんな感情とは裏腹に、心にズッポリと穴が空いた感が拭えない。
この感情は日に日に大きくなっている事を認めていた。
だから、俺はそれを抑えようと、仕事に没頭し、転嫁し、没却しようと試みた。だけど、それは全くの逆効果で。
寂しいものは寂しかった。
桜好きの僕が、今年の桜の事は全く記憶にない。
季節は流れて、、、6月。周りは初夏の色合いを見せ始めていた。