「結局最後、成功するかしないかの差を分けるのはルックスだよ、ルックス」
こう悪態をつくのは、俺のピアノの先生、伊東大五郎さん。
高校まで、週2くらいでバーナムやツェルニーとか行って練習したっけ。
五郎さんのピアノ演奏で譜めくりとかして、たまに会ってたけど、まさかやつとも顔見知りだったとは。しかも、五郎さんもこっちの人だった事に、二度驚いた。
俺達は厚生年金会館にいた。
12月20日、クリスマスコンサート。NKK交響楽団。指揮は、、、愛斗だ。
今でこそ、のだめの千秋が有名だけど、まさに愛斗は地で千秋をいっていた。当時は遠い世界の事と思ってたけど。
曲目はエルガー『威風堂々』
ラフマニノフ(セルゲイ)
ピアノ協奏曲第二。
ピアノは露のトップピアニスト、ストラビンスリー。
威風は、いかにも英英しい気品というか、優雅、繁栄を描いた曲で、オケで演奏するにはもってこいなんだろうけど、全然自分的に好きくない曲。
間延びしてる割に、変化がとつとつで、まとまりがない。多分、クラシックを普段から聞く人用の曲なんだと思う。
だけど、第二はやっぱすごいいい。全てのピアノ協奏曲で1番好きだ。
憂い、愁訴、破滅、怒気、黄昏れ、光明、希望、慶びすべての感情がとめどなくあふれ、やがて一つの点に収束していく。
そのさまは完全な音、映像美、キャストで綴られた映画のような迫力があって身震いしてしまう。
ストラビンスリーは凄まじいピアニストだと思う。バランス感覚に敏感で、タッチが細かい。
フォルテの触り方がごとに違う。
抑えるところと前にでるところがオケと完璧に調和している。
でも、やっぱりすごいのは愛斗だって分かる。
スローからアップへ、弱音から強音へ。
結局、オケは振り幅の広さで全然違うわけで。
はっきりと音の波を感じる事ができる。
きて欲しいときにくる。
同じ第二でも、ピアノがキンキン響くだけの指揮者も多いのに、、
こっから見る、えんび服の愛斗はめちゃくちゃカッコ良くて、なんかドキっとしてしまう。
後ろからギュッと抱きしめたくなる。
演奏会が終わり、楽屋に行くと、知り合いやらファンやらが、押しかけて中に入るどころではなかった。それでも人の間を縫って、愛斗に
「お疲れさん」と言って、花を渡した。
愛斗は子犬のような嬉しそうな顔を浮かべ
「おう」と答えた。
五郎さん「音楽の世界はマジで厳しいんだよ。
俺なんか天才、天才言われて、国内のピアノコンクールに五回も優勝したのに、ホールで弾くなんて全然。愛斗は営業力と性格で人に恵まれてる。
まぁ、それもすごいんだけど。俺は顔が足りないんだよな」
俺「そんな事ないっすよ」 ちょっと完全にも否定できなかったから、軽く受け流した。
五郎さん「家まで送るよ」
俺「あっいや、近いですしちょい余韻に浸りたいんで五郎さんも疲れてるようですから、先に帰って休んで下さいよ」
五郎「そう?じゃあお先に」俺「今日はあざーした」
実は演奏会が終わったら愛斗と約束をしていて。
で、メールが来た。
愛斗「わっ悪い。これから打ち上げする事になって、9時頃終わるからメールする」
俺は今日でなくても、いいんだけどな、と思ったけど、愛斗がどうしても、今日話たい事があると言ってたんで、
「分かった」とメールした。
俺は准に告白するって愛斗に言った。
愛斗からクリスマスに一緒に過ごしたいって言われてて、俺も迷ったんだけど、やっぱ俺は愛斗と過ごす訳にはいかないと思って、全部話した。
9時どころか、10時過ぎても一向に連絡こないし、時間の過ごしようもないので、帰るのを決めかけていた。
その時、「今、行くから」
愛斗「悪い。待たせたな」
俺「遅っ。酒くさっ。けっこう飲んで来たの?」
愛斗「あ、あぁ。少しだけ」てか、珍しくこの日の愛斗は酔っていて。
けっこう、足元もおぼつかない。
いや、この時点では気付かなかったが、何だかいつもの愛斗とは様子が違っていた。
俺「大丈夫?てか帰って寝た方がいいよ」
愛斗「ん。伸之一緒に寝てくれるの?」
二重が重そうな笑顔で発した。
俺「なっ、何言ってんのさバカな事言ってないで、ほら、タク来たから乗るよ」愛斗「んーじゃあ北12東5まで」
愛斗の家から、自分家ってあんま離れてないんだ、、
タクシーの中で、愛斗はイビキをかいていた。
よっぽど今日の演奏が上手く行ったのだろう。
こんなに酔うなんて。
気持ち良さそうに寝ていた俺「着いたよ、じゃあ俺帰るから」
愛斗「伸之、ゴメン。俺歩けそうにないから、肩貸して」
こ、こいつ、、、
俺「あんねぇ、、飲むのはいいけど、ほどほどにしてよね」
愛斗「ごめん」
なんて謝る愛斗がちょっとかわいく見えて。
マジ怒った振りをしてみた愛斗「ごめんって」
俺「ふんっ」
愛斗の部屋の前に着いた。愛斗「上がっていけ!」
俺「、、」
愛斗「なんにもしないから」 俺は別になんかされると思って、躊躇したんじゃないんだけど。
とりあえず中に入った。
部屋の感想は、、、あぁなんてオシャレな部屋なんだ。
バーカウンターとカクテル棚が備えられていて。
青と黒で統一されていて。ソファーなんか皮張りだ。テーブルはガラス作りで、二枚重なって。
で、照明は、、、タリアセン2。20万はしますよね。俺「てか愛斗、俺ん家オシャレとか言っといて、自分ち、なんなのさ?」
愛斗「伸之オシャレだよ。ブラウンで統一されてるしソファーがいい」
寝たせいか、少し意識がはっきりしたようだ。