体の奥から突き上げるような衝撃が走る。「あああ、イク、、、」ケンさんの身体も同時に大きく硬直し、「お、俺も…!」と絞り出すような声が聞こえた。 次の瞬間、二人ともほぼ同時に、ビュッ!ビュッ!と音を立てながら、熱く白い液体がペニスの先から勢いよくほとばしり、互いの胸や腹、そしてシーツに何度も激しく降り注いだ。身体がびくびくと痙攣を繰り返し、全身の力が抜けていく。
僕たちはぐったりと抱き合ったまま、ベッドに沈み込んだ。まだ熱を持ったペニスが、互いの肌に触れたままだ。荒い息が、ひゅうひゅうと喉を鳴らす。部屋には、汗と微かな精液の匂いが充満していた。
しばらくの間、何も話さず、ただ互いの温もりを感じながら、荒い息を整えた。満足感と、わずかな疲労感が心地よく全身を包み込む。ケンさんがゆっくりと顔を上げ、僕の目を見た。彼は優しく微笑むと、僕の頭をゆっくりと撫で、そしてまた、そっと唇を重ねてきた。
「気持ちよかった」ケンさんはそう言うと、ベッド脇にあったバスタオルを手に取り、僕の体に飛び散った精液を拭ってくれた。それから、僕に「シャワー浴びてきなよ」と促す。確かに、オイルも精液もついているし、体を流した方がいいだろう。でも、彼女がいるのにここでシャワーなんて浴びたら、さすがにおかしく思われるんじゃないか? と躊躇した。僕の表情を察したのか、ケンさんは涼しい顔で「気にするな」と言った。
意を決して寝室のドアを恐る恐る開ける。リビングには彼女がいて、こちらに背を向けたままテレビを見ていた。僕は服を持って、その隙に小走りでバスルームへ向かった。シャワーを浴び、着替えて寝室から出てくると、案の定、ケンさんと彼女が何やら話し込んでいる。彼女はリビングのソファに座ったままだが、その口調は冷静ながらも、明らかに僕の存在を疑っていた。「……あんたって男好きだったの?」彼女はテレビ画面から視線を外さずに、淡々と言い放った。「何のことだよ」ケンさんが、驚くほど落ち着いた声で返す。「あのね。聞こえてたよ、あんたたちの声、全部」彼女はそう言って、ゆっくりと立ち上がった。そして、寝室のドアを開けて中に入っていく。その瞬間、嫌な予感が全身を駆け巡る。
数秒後、彼女が手に持ってきたのは、僕がシャワーを浴びる前にケンさんが使ったあのバスタオルだった。広げられたタオルの中央には、少し黄色くなった染みと、乾きかけてゼリー状に固まったものがはっきりと付着している。それは、紛れもなく僕たちの——。
「これ、何?」彼女の声は低く、不快感が滲んでいた。しかしケンさんは、眉一つ動かさずに言った。「だから何もしてないって言ってるだろ。マッサージのオイルだよ」。「オイルがこんなになるわけないでしょ!それに、この匂い……」彼女がタオルを鼻に近づけ、顔を顰める。そして僕を指差して「この子だれ?」ケンさんは冷静だった。「だから、違うって。マッサージしてもらってただけだ。お前が勘違いしてるだけだよ」。彼の態度はまったく動揺せず、あくまで否定し続けた。「別にいいのよ、あんたが誰とセックスしようと、相手が男だろうと女だろうと。でも、バレたら潔く認めなさいよって話でしょ。私だってBLとか好きだし、気持ち悪いとか思わないから。でもまさかあんたが、しかも、私がいるすぐ隣の部屋でそんなことしてたなんて、マジで理解不能なんだけど」 怒っているというより、ただ呆れていると言う感じだった。
僕はただ、呆然と突っ立っていた。足元が凍りついたように動けない。ケンさんがちらりと僕に目配せする。僕は慌てて口を開いた。「すいません、変な誤解与えてしまって。それはただ…」言いかけた僕の言葉を、ケンさんが容赦なく遮った。「お前だって他の男としてるだろ…どの口が言うんだよ」彼女がテレビ画面に背を向けたまま、ピクリと反応する。「私はちゃんと認めたでしょ、自分のこと」「俺はそいつとエッチすることは認めてやったよな」ケンさんの言葉に、僕は思わず顔を上げた。なんだ、この話は?「俺だって自由があってもいいじゃんか」ケンさんが続ける。
「だから、ちゃんと認めろって話でしょ」彼女はケンさんをちらりと見て、まるで諦めたかのように再びテレビに視線を戻した。ケンさんがため息をつく。「ああ、わかったよ。認めるよ。でもエッチはしてませんから」その瞬間、彼女の視線が僕に突き刺さった。ケンさんも僕を見る。まるで「お前も合わせろ」と言っているようだった。僕は喉がカラカラで、やっとのことで言葉を絞り出した。 「ええっと、そうですね。ただ、その…お互いオナニーし合ったくらいで…」彼女はフッと鼻で笑った。 「へえ、まあどっちでもいいわ。ちょっと驚いただけ」そう言い残すと、彼女は再びテレビを見始めた。この二人の関係は、一体何なんだろう。僕はただ、その異様な空気に立ち尽くすしかなかった。ケンさんは気にするな、と言う感じで僕の顔を見る。
ケンさんは気にするなとでも言うように、僕の顔を見た。しかし、その場の気まずい空気がどうにも居心地悪く、僕は立ち去ろうと帰る準備を始めた。だが、すでに終電はなかった。ケンさんは「タクシー呼ぶか、リビングのソファで寝ていってもいいよ」と言ってくれた。この時間、タクシーもなかなか捕まらないだろう。どうしようかと考えていると、ソファに座っていた彼女がフッと立ち上がった。そして、何も言わずに、テーブルに置いてあった小さなポーチに必要なものだけを詰め込むと、そのまま家を出ていく。玄関のドアが、カチャリと静かに閉まる音が響いた。