Aを助手席に乗せて、目的地も決めずに出発する。
街なかから離れて、家もほとんどない場所を走らせていると、突然、海が見えるところに出た。
その日は満月で、穏やかな海に月光が照っている、かなり綺麗な景色だった。
「ちょっと寄っていこうよ」とAが言ったので、車をその浜辺に向かわせた。
浜辺の隅に小さな駐車場があるけど、もちろん車は一台もない。この辺りは山があるばかりで、世界は俺とAの二人だけになったかと錯覚するほど、静かだった。
Aは「あ、思ったより冷たくない」とか言いながら、裸足になって波打際ではしゃいでいる。
そのとき、ふいに足を取られてこけそうに。とっさに後ろから支えたけど、二人でバランスを崩して砂の上に倒れてしまった。
抱き合うような姿勢で笑っていると、Aが急に真顔みたいな表情になって、言った。
「ショウさん、かっこいいっすよね」
「なに、いきなり」
「最初見たときから、めっちゃタイプだなー、って思ってた」
そして突然、俺にキスしてきた。
波の音をききながら、お互いの唇や舌を重ねる。
「車のなか行こうよ」
唇を離したAが言う。
「したくなっちゃった」
そうして、誘うようなかわいい笑顔を向けてきた。