湯船に入ると、丁度二人でいっぱい。
向き合うと恥ずかしいので、洸に背を向ける。
「なんだよ広ー、照れてんのかよ!」
「恥ずかしいだろ!」
なおも僕は体を反対に向ける。
見れば意識して恥ずかしいから。
っと、洸の手が背中を触る。
「照れんなよ!」
そういって、洸は後ろから手を廻す。
そっと僕を抱き寄せながら。
僕の背中と、洸の胸が重なる。
まるでひとつになったみたいに。
重なったからだは、ただ水の中で静かに揺れていた。
どれくらいたっただろう。
言葉もなく時間だけが過ぎる。
っとそこへ母が扉を叩いた。
「ご飯できたから早くでなさい!」
「はーい」
声を揃えて返事をする。
っと、ここでやっと洸が口を開く。
「広は、こうされるの嫌?」
「ううん…でも、なんか変だよ…」
そういって、僕は先に風呂を出た。
着替えてリビングにいく。
すると、母はオムライスを用意して待ってくれていた。
「ほら!あんたの希望のオムライスよ!」
…誰も希望してない。
そして、つくってと頼んでもいない。
(勝手な母だ…)
と思っていると、
「うおー!うまそうじゃん!」
っと洸が声を荒げてリビングに入ってきた。
「洸…これ普通だよ…」
「なーにいってんだよ!めっちゃうまそうじゃんか!」
そう言い切らない内に、洸は席についた。
「ほら食おうぜ!」
「うん!」
二人でオムライスを食べた。
二人で食べるオムライスは、いつもよりも甘くて、なんだか恋の味がした。
桜が散って、葉桜が咲き乱れる頃。
5月の初旬のある日の出来事。