俺に怖い物なんて無かった。
なのに俺は今、とても怖いんだ。
それは、お前の存在。
だって お前は
まだガキで、いつか心変わりしてしまうんじゃないかって
でも。
もっと怖い事がある。
それは
もし、お前と出逢ってなかったらと思うと何よりも怖い
初めて人をこんなにも想えるこの気持ち……
この日々、抱く失う恐怖さえも
幸せに変えてしまいそうなくらい心地良くて…
お前の存在、それは怖いけど幸せで…
矛盾だらけの存在。
何も無かった俺は変われた。
お前に出逢えたから。
なぁ……くそガキ。
一回しか言わねーから良く聞けよ…な?
ちゃんと俺の事……。。。。―――‡
俺の名前はH。
沖縄出身の高3(当時)
175cm55kg。
同じ沖縄出身のアーティスト
安室奈美恵に似ていると言われるせいか、昔から人に可愛い可愛いと言われ続けてきたが
もうウンザリだ。
俺は男なのに…
ムカつく。
あの頃の俺は何も無かった。
唯一やってる事と言えば
そこそこ有名な某芸能事務所に所属しているが、
夢を抱いて入った訳ではなく、スカウトされて
〓なんとなく〓入っただけだ。
そう。
〓なんとなく〓
それは昔から俺の
『得意』だった。
両親は俺が幼い頃に他界し、兄弟もいない。
親戚夫婦に引き取られ暮らしてきた。
叔母さんは良い人だけど俺は未だに心を開けないでいる。
今は海外赴任してるあいつ(叔父)は…
もう最悪。大嫌いだ。
小さい頃にされた
『ある事』を思い出すと今でも腹をえぐられた様な吐き気を覚える。
本気で信頼出来る友達もいない。
恋愛なんてもっての他。
産まれてこのかた、男も女も関係無しに人に対してその様な感情を一切、抱く事はなかった。
告白された事は何度かあるけど、俺には解らなかった。
ねぇ
こんな俺の…
〓オレノドコガスキナワケ?〓
俺は脱け殻みたいな人間だった。
あいつとの出会いは、2008年6月。
夏の訪れを告げる、あの噎(む)せ返る草の匂いがし始めて来た
そんな頃だった。
事務所のレッスン等のクラス替えがあった。
クラスは小学校高学年〜高校生までのゴチャ混ぜ。
ランク(能力)ごとに編成される。
俺のクラスは、テレビや舞台等に現在出てる人、
もしくは出た事ある人で編成されている。
自分で言うのもなんだが、ランクは上のクラスだ。
俺は今現在、
軽くモデルをしながらの、
チョイ役だが舞台を中心とし活躍している程度で知名度も
本当に知る人ぞ知ると言う感じだが
回りを見渡すと結構テレビで見た事ある子達が顔を揃えた。
そして新しいクラスになりレッスン初日。
まず始めに1人1人、自己紹介をする。
皆、自分の芸歴など話に織り交ぜながら特技を披露したり
思い思いに自己紹介を終えてゆく。
これが業界。
まるでオーディションそのものみたいだ。
そして俺もそつなく自分の番を終え
気を抜いてボケーっとしながら残りの人達を見てた。
しばらくボケボケと眺めていたら
見覚えのある顔の男の子が姿を表した。
それは つい最近、たまたまテレビを付けた時にNHK教育で夕方からやっていた中学生の男の子だった。
記憶に新しいせいか妙に見入ってしまい、その子の自己紹介が終わっても目で追ってしまったら
ふと目が合った。
すると その子は屈託のない笑顔で
ニコっと微笑んできた。
〓トクン…っ!〓
何故か鼓動が高鳴った。
それは、今までに経験した事のない高鳴り
この時は この鼓動の意味など知らなかった
今思えば、目が合った
「この瞬間が」
全ての始まりだった。