初日のレッスンは先生と生徒の自己紹介だけで終わった。
昼時だったので、いつも利用してる
レッスン施設内にある食堂で昼食をとる事にした。
今日のメニューは野菜カレーと牛乳。
…っと言っても、ここに来る時は
ほぼ、このメニューしか頼まない。
ここの野菜カレーは、食堂のオバチャン達の手作りで優しい味がして絶品なのだ。
注文をし、料理と共に席に着き
いざ食べようと、
熱々の人参と茄子を頬張ろうとした瞬間…
『あの…』
『…!?ごほっ!』
無防備な時にふいに後ろから声をかけかられ
噎せ返ってしまった。
!!!?
声の主はなんと、さっきのレッスンで目が合った男の子だった。
男の子は申し訳なさそうに
『あ!ごめんなさい!悪気があった訳じゃ……あの、ここ相席いいですか?』
『…え?』
俺は周りを見渡すと席は普通に空いていたので困惑していると
『…あ、えっと。さっきスタジオで目が合いましたよね?
食堂に入って見掛けて「あ!」って思いまして……ダメですか?』
っと男の子は照れ臭そうにハニカミながら言う
〓トクン……トクンっ!〓
まただ。
今度は何かが二度、高鳴った。
(…な。何なんだよ?一体どうしたんだ俺…?)
動揺しつつ、断る理由も無かったので俺は咄嗟に
『…あ、うん。どぞ…』
っと答えてしまった。
すると男の子は満面の笑みで
『良かった!ありがとうございます』
(……うわっ)
根暗な俺にとっては何とも笑顔が眩し過ぎる。
何だろう…この子は…
笑顔の申し子か何かか?
…っと言うくらいにその笑顔は輝いて見えた
そんな事を思っていると
笑顔継続で男の子が口を開く
『あ!今日もやっぱり野菜カレーと牛乳なんですね!
ここのメッチャ美味しいですよね☆
俺も大好きで しょっちゅう食べてます♪今日は焼きそばですけど(笑)』
っと焼きそばをテーブルに置き
俺の目の前の席に腰を降ろした
『…え?「今日も」って…』
『あ。俺も「ここ」の愛用者で実はIさんの事、前からしょっちゅう見掛けてたんです』
ニッコリ答える男の子。
Iとは俺の名字だ。
『そ、そうだったんだ。
…って、あれ?
俺の名前覚えてくれたの?』
『はい!前から見てたんで一番に頭に入りました♪』
『そっか、ありがとう。
あ、ごめん君の名前…
あの時 俺ぼーっとしてて…』
俺が申し訳なさそうに答えると
『全然大丈夫です♪人数も結構いますし仕方ないですよ!
俺、中学○年の
○○○○って言います!
良かったら仲良くしませんか?
皆にはZって下の名前で呼ばれてるんで、Zって呼んで下さい』
そう明るく応えてくれた。
それは凄く真っ直ぐな瞳だった。
真っ直ぐな瞳に屈託の無い笑顔
俺は人生で初めて、初対面の人間に
純粋に興味が沸いた。
今まで出逢って来た人間には無い何かを感じたんだ。
そう。
それは目が合った
〓あの瞬間〓から惹かれていたのかもしれない。
俺は
『…あ。うん、こちらこそ俺で良かったら。
でも俺でいいの?
俺高3だし結構、歳離れて…』
すると俺の言葉をかっ切る様に
『そんなの全然関係ないですよ!!
それに実は前から、何かIさんと仲良くなりたいな〜…って。だから今日、同じクラスって分かってメッチャ嬉しかったんですよ☆』
そういうので俺は不思議に思い
『え?そうだったの?何で…?』
そう問いかけると、彼はチョット答えづらそうにハニカミながら
『…いや、えっと…あの。
いつも食堂で見掛ける時に
野菜カレーを嬉しそうに笑顔で食べてるのを見て可愛い人だな〜……って』
俺は最後の言葉にビックリし
(…な!?か、かわ……!!??)
俺の戸惑った顔色に気付き彼は慌てて、かなりの早口で
『いや!あ!その!ごめんなさいっ!!…そ、その、でも本当にそう思ったんで…
そこら辺の女の子より可愛い…ってか、あ、いや。変な意味じゃなくて…!
その、食べてる時の笑顔が可愛いと言うか…
って、あれ!?本当に俺、何言ってんだろ!?
ごめんなさい俺バカなんで!』
〓可愛い〓
それは俺がこの世で言われて一番大嫌いな言葉。
女子に言われた事は何度もあるが
流石に年下に言われた事はなかった。
しかも男子中学生…
俺は男だ。
〓可愛い〓
ふざけんな。
ムカつく。
嫌だ。嫌だ。
凄く嫌なはずなのに。
お前から言われた、
あの日あの時、初めて
嫌じゃなかったんだ。
〓トクン…っ!〓
三度目の高鳴り。
〓トクントクントクントクントクン…っ!〓
今度は
止まらない。