「先生たすッ」
挑発したとおり叫ぼうとしたコウキの頬にヨシダの張り手が決まった。
パンッという音が密室に響いた瞬間。
俺の中でも何かがパンッと破裂した。
俺はクラスメートを押しのけ、ヨシダに近付き、顔を一発殴った。
後のことはあまり覚えていない。
倒れたヨシダ。
取り巻きがコウキから離れ、俺を囲んだ。
そのまま殴る蹴るの喧嘩。
人生初の暴力的な喧嘩は、個人戦で敗退したが、結果的には勝利だった。
他のクラスメートも取り巻きを襲い、先生を呼び、コウキは無事救われた…らしい。
気付いたら保健室だった。
だが、それほど時間は過ぎていなかったようで、やっと放課後になったとこだった。
一学期最後の水泳を無駄にしてしまった。
なんかもったいない。
体を起こし、ベッドから下りた。
隣のベッドにはヨシダが寝ていた。
仕切りのカーテンから顔を出すと、コウキが養護教諭と話していた。
「コウキ、大丈夫か?」
俺はコウキに近付いた。
「ショウ君…ごめん…」
泣き出すコウキ。
え?
なんで?
なんで急に…。
まさかぶりっこ発動か?
「ショウ君、コウキ君から話は聞いたから。とりあえずもうちょっと休んでて。担任の先生来るから」
養護教諭が言ったとおり、すぐに担任がきて二人で生徒指導室に連れて行かれた。
状況を説明する。
「まぁ…他のやつから話は聞いてたから大体は分かってたんだけどな。まぁ…とりあえずヨシダの処分は確定だな。まぁ…後はショウの処分だが…」
「先生!ショウ君は僕のために!」
普段は大人しいコウキが大声を出して俺を弁護してくれた。
「それは分かってる。だが、暴力ってのがな…。まぁ…なんだ。俺の一存じゃ決めらんないからな。まぁ…校内清掃とかさせられんじゃないの」
テキトーな言い方ながらも、俺の正当性を認めてくれた。
「先生…」
コウキがまた泣いた。
「まぁ…これは俺個人の意見なんだけどさ」
そういうと、担任は俺の頭に手を置いた。
「よく頑張ったな」
くしゃくしゃと頭を撫でられた。
気付けば泣いていた。
認めてもらえたことがすごく嬉しくて。
学校で泣いたのは小学生の時以来だった。