新歓が終わって練習が開始した。案の定俺はまともにボールを蹴ることすらできない。女子達も最初は彼女はいるのかとか、一人暮らしはどうだとか、もしかすると俺ってモテるのかと勘違いしそうな扱いは、あっという間に雑になった。同級生達も、
「ヒデってジャージ着てボール持ってたら、いかにもやってそうな感じなのにな。動かないで突っ立ってたほうがよくね?」などと言ってげらげら笑っている。
そんな時、ゆうすけ先輩が、けんた先輩にお前が責任持って指導しろとを全員の前で言った。
こんなことがあると、また高校までの自分を思い出してしまいそうだったが、けんた先輩が笑顔でいいよと言ってくれた。ふさぎ込むどころか、嬉しくてたまらなかった。
それから毎回練習は、体育館の隅でけんた先輩と二人で練習するようになった。欠席も遅刻もせず、必ず練習に出た。
一番楽しかったのは、他の皆が練習している横で、けんた先輩がサッカーのことを教えてくれたり、学校のこと、単位のことなどいろんなことを話してくれる時だった。
体育館の隅で二人で座って話している時に改めて好きだと感じた。汗で濡れている髪も、高校生か中学生みたいに綺麗な肌も全部好きだと思った。抱きしめてみたいと、何度も衝動に駆られた。
ある日、けんた先輩はバイトを始めると言い出した。中々練習に来られなくなると。俺の不安を察して、
「大丈夫だって。だいぶ上手くなったよ。」と笑顔で言ってくれたが、おれの落ち込みは半端ではなかった。
この時辺りからけんた先輩は少し変わった。
けんた先輩が来ない時は、全体の練習に混ざって練習した。他の同級生達は、
「ヒデの大好きなけんた先輩いなくて淋しいんじゃね?」とか、
「あのど下手くそをここまで育てた先輩すげぇ。」と言って馬鹿にしてくる。確かにけんた先輩がいないと淋しかったが、一方でこんなふうに普通に話せる友達ができたことは嬉しかった。
けんた先輩が練習に来ると相変わらず、二人で練習した。ただ、前とは少し違っていた。先輩は何となく少し身長が伸びてきた感じがした。そして、今まで話している時、良い意味でクールというか、俺だけではなく誰にも対しても壁がある、そんな雰囲気だった先輩は、前よりも壁が無くなった気がする。人懐っこくなった。
それは良いことだ。でも、俺がけんた先輩のことが好きだからこそ気付いたと思うが、いつもゆうすけ先輩を目で追っているような、気にしているような気がした。 俺は凄く不安になった。
不安は的中したと思った。それまでは会話に無かった、恋愛話をするようになった。でも、誰かと付き合ったことなど無い俺は、どうしたらいいかなんて解らなくて、ただひたすらその話を聞くしかなかった。