僕は中2の春に転校した。
みんな知らない人たち。
自己紹介をして、自分の席に着くまで緊張していた。
見慣れた中に1人だけ知らない人がいるって状況は、同じ面子で1年過ごした人達にとっては刺激になったのかも知れない。
皆が僕に話し掛けてくる。
都会から引っ越してきた僕は、田舎と都会の人間の違いを感じた。
皆が優しかった。
イジメの雰囲気なんて全く無かった。
「少し静かにしろ。委員長、放課後、中澤(僕の苗字)に学校を案内してやってくれるか?」
先生が呆れながら言った。
「わかりました」
後ろの席の、落ち着いた雰囲気の男子が返事をした。
「中澤君、クラス委員長の五十嵐健です。よろしく」
「よ、よろしく」
優しく微笑んでくれた五十嵐君。
僕の笑顔は多分引きつっていた。
最初の日はすぐに過ぎた。
まぁ、始業式とかだけで授業がなかったし。
放課後は五十嵐君に学校を案内してもらう約束だ。
「中澤君、もう行けるかな?」
五十嵐君のほうから話し掛けてきた。
「あ、俺も一緒に行く!」
そう言ったのは隣の席の山下君だった。
山下君は、活発でお調子者タイプな人。
「泰明(山下君の下の名前)が行っていいなら俺も行く」
山下君の後ろの席の谷津君だ。
谷津君も山下君みたいなムードメーカらしい。
「じゃあ4人で行こうか」
五十嵐君は『しょうがない』といった感じの笑顔を見せた。
一階から順に学校を案内してもらった。
東校舎の1〜3階は教室。
南校舎には職員室や図書室。
西校舎には理科室や音楽室があった。
体育館は始業式で行ったから割愛。
「だいたいこんなもんかな」
再び教室に戻りながら、五十嵐君が呟いた。
「案内してくれてありがとう」
「いや、気にしないで。これから友達になるんだから当然のことをしただけだよ」
五十嵐君が微笑んだ。
「じゃあ、僕は生徒会に行かなきゃだから。また明日」
「うん。また明日」
また明日…。
そうだ。
明日から楽しい生活が始まるんだ。
「中澤ン家ってどこ?」
不意に山下君から話しかけられた。
「駅の近くのコンビニの裏らへんだよ」
だいたいの位置を答える。
学校から歩いて20分くらいのとこ。
「お、俺ン家の近くじゃん!一緒帰ろ」
「う、うん」
中学生になって初めてだった。
誰かと一緒に帰るのは。