続きです。
駐車場に車を停め、降りたら棟に向かって走った。
暗い中、少しの明かりを頼りに水溜まりを避け、なんとか屋根があるとこまで駆け込み、一息吐く。
うるさいと下の階から苦情が来るからゆっくり上がった。
鍵を取り出しながら二階に上がる。
ケータイのライトで足元を照らしながら歩いていた時だった。
お隣の家の前に何か黒い塊がある。
それに人の顔を確認した時、俺は『視て』しまったと思った。
幽霊なんて信じてなかったのに。
まさか、俺が…。
どうしてイイか分からず、立ち止まってしまっている俺に幽霊は「邪魔…すか?」と尋ねてきた。
その声を聞き、俺は幽霊の正体が隣に住んでいる高校生だと分かった。
「いや、ちょっとびっくりしただけ。てか、どうしたの?」
「鍵、開いてなくて」
「10時過ぎてるよ?お母さんは?」
「帰って来ないです。あの人のことは分かりません」
ボソボソと喋る少年。
「お父さんは…無理?」
「…連絡先、知らないです」
離婚しているからそうだとは思った。
「とりあえず家においで」
「いや、邪魔になるから。ここで寝るから大丈夫です」
この状況を見て捨て置くわけにはいかない。
「ほっといたら俺の寝覚めが悪いから。俺のためだと思って…な?」
「…わかりました」
立ち上がる少年。
「そういや、名前は?」
鍵を開けながら名前を訊いた。
「千明です」
「千明か。ほら、入りな」
「お邪魔します」
靴を脱いで、靴下を脱ぐ千明。
たぶん濡れているからだろう。
俺も靴下を脱いでから上がる。
「間取り一緒だから、どこに何あるかはだいたい分かるっしょ?」
「はい」
「あ、洗濯物はこの籠に入れて」
洗濯機横に置いている籠を広いとこまで持ってきた。
「着替えは…あ、これでいいや」
洗濯し終わった物の山からパンツとTシャツを取り出した。
ついでに俺の分も。
「迷惑かけてごめんなさい」
「いや、気にすんな。あ、シャワー浴びてこいよ」
「いや、さすがにそこまでは…」
見た目はそれなりなのに性格は根暗か。
「風邪引いたら大変だから。それに、なんか弟ができたみたいで悪い気はしないし」
これは本音だ。
姉と妹しかいなかった俺からしたら新鮮だった。
続きます。