勃起がすぐに収まるはずもなく、時彦は布地に収まらない股間を手で隠したまま、個室の一つに逃げ込まざるを得なくなった。
生憎と普通の部屋は空いておらず、やむなくブラックライトの部屋へ入る。
生で見る他人の情事は、時彦の性欲を焚き付けた。
既に屹立したペニスからは、透明な滴が先走り、てらてらとブラックライトに照り返す。
時彦は指先に滴を絡めながら、壁に寄りかかって、聞き耳を立てる。すると、どこかの部屋で、肉を打ち付ける音がリズミカルに響いてくる。先程の二人であろう。野太い喘ぎが途切れ途切れに入り交じる。
気付けば、それに聞き入るうちに、時彦のペニスは痛いほど反り返っていた。
(少しだけ、少し撫でるだけだから……)
時彦は一度ティッシュで手とペニスを拭うと、乾いた感触の亀頭をそっと撫で回す。
性欲を満たすだけの異常な環境と、そこへの期待感からか、普段よりもソフトな愛撫でさえ、時彦には刺激的だった。一度拭った滴は瞬く間に溢れ、陰毛を淫らに濡らす。
「くっ……ふぅっ!」
早くなっていたストロークを咄嗟に押さえ、達しかけた快感をペニスごと握り潰す。ここで達してはいけないのだ。
ティッシュをもう一枚とって、溢れた滴を丁寧に拭う。もう屹立を布地の中に収めるのは諦めた。最初に見た男がそうしていたように、このフロアでならば「そうして」いてもよいのだ。
そう決心すると、時彦は小部屋を出て入口の椅子のところへ戻る。
壁の時計は8時少し前、天六の言った時間まで、あと僅か。
時彦は入口の左、長椅子に腰を下ろすと、両膝を立てて股を軽く開く。
これで、時彦に興味を抱いたものは正面に回れば、申し訳程度に宛がわれた布地から伸びるペニスも、殆ど露になったアナルも存分に検分することが出来る。
自らの行動に羞恥と興奮を感じながら、時彦は来客を待つ。
程なくして、階段を上ってくる客が増えてきた。
最初に手を出してきたのは、肌の白い太った男だ。
時彦を眺めていたかと思うと、隣に座って、そっと股間に手を伸ばす。
断りもなく出された手に、一瞬体が跳ねたが、敢えてされるがままにされてみる。
時彦の無言の承諾を得て、男は内股をなぞりながら、皐丸や会陰部を揉みしだく。
男の愛撫に身を委ねている間に、ギャラリーのようなものも現れ、2、3人の男が時彦の痴態を黙って眺めている。そして何れも、自身のいきり立ったペニスを晒し、隠そうともしない。
見物されている。周囲の視線を感じた時、時彦は軽く達してしまった。
「んんっ!」
鼻にかかった甘い喘ぎを漏らし、背を反らして腰が浮かぶ。ちょうど正面のギャラリーに向けて、アナルを晒して施しを乞うような格好だ。
「はぁ……はぁ……あ」
一息ついた時彦の前に、もう一人の男が屈み込む。
金髪の若い男だ。時彦の股間に近付くと、滴で光るペニスをくわえようとする。
「あ、あの」
時彦は咄嗟に男を押さえ、こう言った。
「前は弄らないで、後ろを、可愛がって、貰えま、せんか」
切れ切れにそう言うと、金髪は一瞬、呆気に取られたが、すぐに笑みを浮かべると、立ち上がって腕をとる。
「いいぜ、可愛がってやんよ。そっちの人と一緒にな」
金髪の目配せに、太った男も応じて立ち上がる。横を見やると、不自然に途中で下向きに折れ曲がった彼のペニスが剥き出しになっていた。青筋を立てて勃起したそれは、鎌首をもたげた蛇にも似ていた。
時彦は二人に連れられ、鏡張りの壁がある、あの大部屋へと連れ込まれた。