それからの僕は最悪だった。
しんじさんと会った日はしんじさんとHして、家ではケイタくんとHをした。
しんじさんとは付き合ってるわけじゃないから浮気じゃない。ケイタくんとも付き合ってるワケじゃないから…と自分に言い訳をして、この関係を正直楽しんでいたんだと思う。
ケイタくんは不起訴が決まってからも僕の家に週4日くらいはいたと思う。ほぼ毎日僕の家から出勤していた。もちろん、その間はケイタくんとSEX三昧だった。
ケイタくんは以前の仕事は退職した。逮捕、拘束された時点で無断欠勤が続いたこと。その後勾留が終わってから逮捕されたから出勤できなかったと説明したが、それで分かりました、ごたごたが終わったら出勤してくださいね。と言われるほど世の中は甘く無かった。せめて自己退職としてくれたのは会社の温情だろう。
その後はバイトをしながら、また正社員で働けるとこを探す日々だった。
僕はそんなケイタくんを、今度こそ支えてあげようと思った。前は突き放してしまって、後悔した。だけど、今回こそは最後までケイタくんを支えて…その後はあわよくば告白をして正式に2人で…と考えていた。
そのためにも、僕はケジメをつけないといけない。
しんじさんとの関係を精算しないで、ケイタくんとこれ以上一緒にいることは2人を弄んでるのと同じだ。
まだ残暑が残る9月の終わり、僕はしんじさんに話があるから家に行きたいとLINEをした。
そして、僕の仕事の終わりにしんじさんの家を尋ねた。
玄関で出迎えてくれたしんじさんは少し疲れた顔をしていた。仕事の終わりに、一日の終わりにこんな話をしなきゃいけない事に罪悪感を感じる。
『こんばんは…』
【おー、入って入って】
こんな時でもちゃんと元気にノリよく迎えてくれる。
『ここで大丈夫です』
【俺を捨てる話?】
僕は以前と違って、そんなんじゃないと言えなかった。無言が少し続く。
『しんじさん、僕まだケイタくんのことが好きで…もう少し…ケイタくんを側で支えてあげたい…僕が守ってあげないと…だから、しばらくは…しんじさんとは』
【Hした?】
『えっ?』
【そのケイタとはHしてるの?】
『…はい…』
【まぁ、いいよ。だって俺たち付き合ってるわけじゃないから】
『あんまり、そういう事は言わないで欲しい…』
【それは都合が良すぎるよジンくん】
しんじさんが少し僕を睨む。
【言うよ。浮気じゃないけど…両天秤にかけられてたんだから、言わせてもらう】
『…はい』
この勢い…もしかしたら殴られるかも?普段は決して強い口調で責めたりしない、そんなしんじさんの姿に僕は少し覚悟を決めた。
【その23歳のなんとか君とやらと、これから先何を話すの?何を共感して、何を教えてもらうの?その子はジンくんみたいに新聞読んでるの?TVでニュースを見るの?小説を読んだり、レコードを聞いたり…時にはブランデーやウイスキーを飲んだりするの?俺はする、共感ができる】
【支えてあげたいって言うけど…じゃあその子はジンくんを支えてあげられるの?ジンくんだって誰かに寄りかかりたいってなった時に、その子に寄りかかって安心が得られるの?】
『…』
【若い子と付き合うのは楽しいかもしれないけど…楽しいだけじゃ、歳の差や価値観は埋められないよ。守ってあげたいか…その子を苦しめる全てのことから守ってあげたいってやつか(笑)でも、そんなことをしてたら、その子はこの先1人で生きていけなくなるよ】
僕は…ちょっと泣いていた。涙が溢れるのが自分でもわかる。しんじさんの言ってる事は至極真っ当だ。
【もういい…これ以上は負け犬の遠吠えだから】
『そんな事はない…』
【そんな事だろ(笑)】
【だけど、まぁ勝負もしてないのに不戦敗っていうのはムカつくから、俺にも勝負させてよ】
『どういう事?』
【ジンくん、俺と付き合ってよ】
暑い。
玄関は暑かった。
しんじさんの熱気もあって、お互いに汗でシャツが透けるほどだった。しんじさんのワイシャツは汗で下のランニングシャツが透けていて、ちょっとエロい感じがした。
僕はしばらく考えてから言った。
『返事って今すぐがいい?』
【今すぐ…そんなによーく考えないといけない相手なら、そんなの長く続かないよ。俺は本気だから、これで負けたらもうジンくんには会わない。ちょうどいいタイミングだし…ここも引き払って新しいとこに行こうかなと思ってたとこだから】
『分かった…』