『ごめん、仕事の電話があったから』
僕が洗面所に戻ると、ケイタくんはすぐに僕の服を脱がせてくれた。久しぶりでなんだか恥ずかしい。昔は裸でもっといろんなことをしたのに。
「ジンさんの体久しぶり」と僕の体をペタペタと触ってくる。そんなに鍛えてるわけでもない中年の体の何がいいのか分からない。
『ほら、お風呂入ろう』僕が促すと、ケイタくんは「もしかして、もうたっちゃいました?」と冗談を言えるようになっていた。
『あれから、恋人ともいろんなことがあったの?』
僕は湯船に浸かりながら、体を洗っているケイタくんに聞いた。
「ありましたよ…」
『どうしてるの?』
「分からないです。ブロックされてるし…」
『そっか…』
「ジンさんから貰ったお金も、自分で貯めてたお金も全部持ち逃げされちゃいましたよー世の中ってジンさんみたいに良い人ばっかりじゃないんですね(笑)」
「もうどうでもいいって感じです(笑)自分の人生ってバカみたいだったなーって思って…」
「刑務所でも前科でもなんでもいいですよ…もう別に無敵って感じです(笑)」
『ケイタくん…今何歳?』
「23です…」
『僕と出会った時のケイタくんはけっこうドン底だった?』
「はい…人生終わってたと思います…」
『でも、ケイタくんは自分の力で人生を取り戻したよね?』
「それは…ジンさんのおかげで、自分の力じゃないです!」
『じゃあ、今回も僕が力を貸してあげるから、また再出発しない?』
「でも…」
『ドン底だった時から復活した3年前と、今とで何が違うの?たった3年ちょっとで何もかもが分かって、自分の人生を悟って、もう復活できないって思ってるの?』
「それは…」
『ケイタくん、またやり直しをしよう』
ケイタくんは俯いたまま喋らなかった。体についた泡を流して、髪を洗っていた。シャワーで分からなかったが…多分泣いていた。
なんとなく風呂の天井を見上げる。
ケイタくんが湯船に入ってきた。僕にもたれて座る形になる。僕は後ろからケイタくんを抱きしめた。
「ジンさん…僕は自分で悪い事したと思ってるんです。だから、刑務所行きでも仕方ないかなって思ってるんです…これは自分なりの反省なんです」ケイタくんが口を開く。
『ケイタくん…反省は偉いよ。けど、こんな事で刑務所は行かない。だけどね、前科はつく。前科がついたらもう終わりだよ。今の世の中でこんなペナルティ付けて一生を生きていくなんてハードモードだよ。今、ケイタくんがする事は反省して、相手の人にも謝って、示談して丸く収めることだよ…こんな事で23年の人生を、自分の手で終わらせちゃダメだよ…』
「もう逮捕されたし…」
『逮捕と前科じゃワケが違う…ケイタくん、最後だ…人生やり直すか、終わりにするか』
ケイタくんは無言だった。そのまま10分程が経過した。ケイタくんの洗い立ての髪の毛から爽やかなシャンプーの匂いがする。ケイタくんのドキドキという鼓動も伝わってくる。
「また、やり直したいです…助けて欲しいです…」