翌日、朝練に隼がいなかった。
何となく心配になり練習に身が入らず、またもや先輩にダメ出しを喰らう俺。
『メンタル弱すぎ…』
そんな事を言われても…
いまいち心ここに在らずな俺。
制汗シートで体を拭いて制服に着替えると、隼のクラスを経由して自分のクラスへと向かった。
廊下から隼の姿を確認できたので…安心した。
食堂で友達と学食を食べていると、隼もまた友達と を引き連れてやってきた。
すれ違い様に「お疲れ様です。」や「んちわっす。」といった部活の挨拶をされる。
普段よりかなり小さめな挨拶をした隼に野球部の友達が「何やあいつ、舐めとんか?」と攻撃的な言葉を発すると、他の奴らも過敏に反応し始める。
一年生の集団の一部がそれに気がつきピリピリし始めたので、「いいから、辞めとけ、何でもないから…」と庇うと一時的にその場は落ち着いた。
だがクラスに戻ると「翔は甘い」「空手道部はどうなってるのか」とやや大ごとになりつつあった。
そこもまた俺がその場を収めたが、部活によっては先輩が引退し始めており、新チーム発足などで友達達も相当のストレスに苛まれている…その反動なのだと思った。
実際、俺が先輩からより厳しく叱られ始めたのはそういう時期だからというのもあるのだろう。
放課後、部活が始まると、そこにはいつも通り隼がいた。
組手で向かい合うといつもの隼で安心する。
声出しや動きもいつも通りで安心した。
試合形式になると、いつもより大胆に攻撃して良い点と、動きが雑で単調になって悪い点とが錯交してみてとれた。
先輩達も隼の微妙な変化に気がつき、僕に隼と話して来いと声がかかり、俺と隼は土手ランニングを告げられた。
2人で横並びで無言で走る…
気まずい…
何って話しかけたら良いんだろう…。
普段、話し始めるきっかけって何だろうと考えてみると、いつも隼から話しかけられている事に気がついた。
トン、トン、タッ…。
僕は足を止めた。
先行した隼が振り返りながら止まった。
翔「ごめん、何って話しかけたら良いかわからなくって…」
隼「え?あ…ぃや、大丈夫です。」
翔「ちょっと歩きながら話そうや。」
隼「え?はぃ、でも走んなくて良いんですか?」
翔「俺が良いって言ったらいいの。」
隼「なんかジャイアンっすね。」
やっと隼の笑顔と冗談が聞けて安心した。