国道沿いの日本家屋の前に車を停めた。
隼は覚悟を決めたとはいえ緊張している様だ。
本来ならスーツを着させたいところであったが、拵えもないため普段着のまま失礼する事にした。
足が進まない隼に変わり私がインターホンを鳴らした。
「はいはーい」と少し声高な他所行きの声がして、家の中から40歳前後の女性が出てきた。
「はーい、どちら様でしょうか…って隼、お前なのかい?」
頷く隼を見る前に「あんた、隼が来たよ。」と家に向けて叫ぶと共に家の中に入って行った。
家の中から眉間に皺を寄せた男性が出てきた。
「おじさん…」隼が微かに囁いたがその声を掻き消す様にすごい剣幕で囃し立ててきた。
「隼、何しに帰って来た。お前はもう我が家とは関係ないんじゃ、帰ってこんでもええ。
それに尾道の料亭から行方不明だと連絡があったが何しよるんや。
どうせ妹の子供なんぞ、フラフラ遊び呆けとるんじゃろ、金の無心ならお前にやる金なんぞ鐚一文ないぞ。
そもそもお前の母親の借金をお前がわしらに返してもらってもええくらいじゃ、なんや、金を返しに来たんか。違うならうちに何の用事なら、わしはお前みたいな犬っころに何の用事もないぞ。」
詳しくは覚えていないが、こんな内容の話を立て続けに10分程度掛けて隼に怒鳴り散らしていた。
隼は下を見て黙ってじっと耐えていた。
はぁはぁ…と息を整える途中で、隼の少し後ろに居る私に気がついた。
「あんたは誰だ、借金取りか?ここに来ても金は出さんぞ。そもそもこいつは妹の子供で、妹が死んでから嫌々引き取ったが、もう絶縁して赤の他人だ。ここに来ても金はないぞ。」
私に対しても同じ様にきつい言葉をぶつけてきた。
「おじさん、やめて下さい。この人は借金取りではないです。」
それまで無言で耐えていた隼が泣きながら叫んだ。
「この方は広島の神主さんで、僕は今、この人の元で働かせてもらっています。
今日ここに来たのは神主さんが育ての親に挨拶に立ち寄る様に言って下さって、家に寄らせて貰った次第です。だからこの方にそんな風に言うのは辞めて下さい。」
懸命に反論した隼に対し、この『おじさん』は更に罵倒を浴びせ始めた。
隼はまた黙って耐え続けている。
5分程度経過しただろうか…私はこの根性のひん曲がった『おじさん』に殺意にも似た怒りが込み上げてきた。