昼過ぎ位には終えて帰ることができた。
神輿を小屋に入れると厳重に鍵を掛ける。
(近年、空き巣に入る外国人勢が多く、神仏関連のものが好んで狙われる…などと聞く。物騒な世の中になったものだ。)
担ぎ手とその子供達は吉川さんに誘われて家を訪れた。吉川さんの家では奥さんが労いの昼食を準備してくれていた。
「いらっしゃーい」元気よく挨拶をしながら長テーブルにご飯を運ぶ葵ちゃん。
ふと隼と目が合うとペコリと会釈をして顔を赤らげて台所に走って行った。
ふと隼を見ると、長テーブルの前に腰掛けたまま恥ずかしそうにソワソワしてお茶をチビチビのんでいた。
ぎこちない2人の空気感が痛いほど伝わってきた。
「昨日は葵を送ってくれてありがとうね?」吉川さんの奥さんが隼に話しかけると、いえいえ…と言いながらなぜか正座をして対応している。
やはり、16歳には『性』は神聖なものなのだろうと感じた。
昼食会は終始賑やかでとても楽しかった。
離れて座る隼と葵ちゃんは時々目を合わせては緊張し合っている。
「隼、そろそろお暇するが、葵ちゃんのLINEとか聞いてるのか?」
「あ、まだです。」
「それでええんか?次いつ会えるかわからんけど、このままバイバイしてええならええが。」
「そうですよね…でも聞きにくいし…」と言いながらモジモジしている。
腹が立って来たので「お前今日何を食べたか覚えたらんじゃろ?いつまでそんな態度とっとるんや?
もしもこのまま葵ちゃんの連絡先貰わずに帰ったら、明日から車には乗したらん。そんな小心者は願い下げじゃ。」
「え?いや、それは困ります。」焦ってこちらに向かって正座をして見つめて来た。
「昨日のお前は積極的でとても良かったぞ?その気持ちのまま、相手にお前の思いを伝えればいいんじゃないか?」
「そうですね、わかりました。僕、いってきます。」
そう言うと女子中学生達と女子トークをしている中に割って入って行った。
話しかけたかと思うと2人で台所の方に消えていった。女子中学生達はキャッキャしながら葵を送り出し、その後は眉毛を上下に動かしながらヒソヒソと話している。
数分後に葵ちゃんが戻って来ると、蜂の巣をつついたかの如く質問攻めにあっている。
それを横目に隼が私の元に帰って来た。
「貰えました」と私の耳元で報告して来たので 、でかした!と、グータッチをして労った。
「吉川さん、宴会の途中で申し訳ありませんが、明日の準備もあれば、これにてお暇させていただきます。」
そう挨拶をして玄関に向かう。
隼は隣で私に合わせて挨拶をした後、葵ちゃんと小さく手を触り合って顔を真っ赤にして帰路についた。
葵ちゃんが中学生達に質問攻めされている声が隼の背中に刺さり、申し訳なさそうに、でも少し嬉しそうにしていた。