「勇人さん、朝ごはんできましたよ。」
掃除や片付けはやり始めたら終わらない…。
どこの格言か知らないが、悠に1時間は経っていたみたいだ。
母屋に入ると味噌汁のとても良い匂いがした。
炊き立てのご飯に漬物、大根サラダが準備されていた。
「精進料理ってこんな感じで良かったですか?」
冷蔵庫には野菜の他には殆ど何も無かった中で、よく出来たなと思った。
神社では牛の殺生飲食はダメだがそれ以外なら食べられることを教えてあげると、「なんだ、なら料理のデパートリーが増えますね。」と何とも頼もしい事を言ってくれる。
2人で食べ始めると、味噌汁にも大根や人参が入っており、お腹も徐々に膨らんだ。サラダもシャキシャキで美味しい。
隼はつい数ヶ月前まで料亭の調理場で働いていた事を思い出し、料理の腕前に納得した。
それからは夕方まで本殿で祈祷を行い、札やお守りを作成した。
夕日が襖から差し込み始めたため外に出ると、広い境内は綺麗に履き清められていた。敷石に散乱させていた道具類も綺麗にまとめて収納されている。
隼の所業である事はその丁寧さから明白であった。
襖の閉まる山野に響く音に反応して、隼が母屋から出てきた。
「お疲れ様です。お勤めは終わりましたか?お昼に吉川さんが来られて野菜と卵を頂きましたので、それを使ってお夕飯を支度しています。お風呂も掃除させて貰って沸かしてありますので、先に入られますか?」
なんとも非の打ち所がない対応に感謝を述べながらも戸惑いながら風呂に入った。今日は隼の『お背中流します』は無いようなのでのんびりと湯に浸かれた。
隼はノンケのはずだが、出会ってから何度も俺に逝かされ続けており、どんな気持ちでいるのだろうか…
そもそも、今ここで俺の仕事の手伝いをしていることも、どう思っているのだろうか…。
そんな事を考えながら湯船に浸かっていると、窓の外で洗濯物を取り込む隼が見えた。
『そういえば、洗濯機を回したまま干すのを忘れていた…』そう思ったが、私が頼むまでもなく洗濯物を干して、そして今取り込むに至っている事を知った。
俺が朝から本殿に籠っている間に、どれだけの仕事をこなしてくれていたのだろうか…と隼のその直向きさと丁寧さに感心した。
夕食の際にそれらについて確認すると、居候時代にじっとしていると針の筵に座している様な感覚だったため、自然と家事全般をこなしていたとのこと。住み込みの際にも賄いや先輩達の洗濯などは新人なので自分がしていたとのこと。
同僚や先輩が隼をイジメたのはこの機転の良さを嫉妬したのだと推察できた。
隼が風呂に入った際に先に寝るからゆっくりする様に伝えると、私は就寝した。
1時間後、寝ている私の布団に隼が入って来た。
ゴソゴソと動く隼に気付いて腕枕をしてやると喜んで腕に頭を乗せて隣で寝た。
左足に隼の体に纏うものがない状態であることを感じたが、私もそのまま入眠した。