しばしの休憩の後、谷を下る。
下り道はハイキングコースレベルの歩きやすいコースであった。しかし、2つ目の山は、若干岩肌が露呈している段差が高くやや滑りやすい足元だった。
隼はシャベルを杖代わりにして、昨日のリベンジのような気迫で登山を続ける。
山の中腹に差し掛かり2つ目の社に到着した。
隼は見晴らしの良い岩の上に座り足を垂らしたまま寝転がっている。
私は袴に着替えると隼に休憩するように伝えると祭壇に向かった。
30分程度で祈祷は終了。
少し時間は押し気味であったため、私は着替えるとすぐに次の社に向かった。
今し方、登ってきた岩山を下るのは、やや気が重い事でもあるが、山の麓まで戻る必要があった。
「昨日も言ったが山道は下る方が難しい。足を取られない様に気を引き締めて下りなさい。」
そう言うと隼は力強く「わかりました」と答えた。
連日の慣れない登山で全身筋肉痛にも関わらず、16歳とは思えない力強さと気迫を隼は持っていた。
それとも私自身や私の周囲の環境にいた者どもは、この16歳から見れば『ぬるま湯』に浸かった甘ったれどもなのだろうか。
麓の社は人家にやや近く神殿も比較的に整備されていた。
今日3度目の祈祷は畳の上で行った。
登山途中の神事ではなかなかレアな事なので少し嬉しかった。
ニコニコして神殿から出てくると、隼から「なんかヘラヘラしてません?」と言うので、理由を教えたのだが理解して貰うのは難しかったようだ。
「ほら、早く行きましょう。次が最後ですよね。日が暮れちゃいますよ。」
慣れた様子でリュックを背負うと私にそう言い放った。
これではどちらが先導しているのかわからないな…と思いながら、黄昏の夕日の中、2人で山を登った。