私は荷物を1つにまとめた大きめのリュックを背負うと「では行こうか。」と言った。
隼が「勇人さん、僕が荷物を持ちます。」と言うので「今日の君次第で次からお願いするか決めるよ。今日は隼は俺に着いて来てくれればそれで良いよ。」
何度か荷物を持つとせがまれたため、リュックの横にぶら下がっている大きいシャベルを手渡した。
隼は納得していなかったが、そのまま出発した。
山の中核にある社までの山道は確かに存在するが整備はされていないため、『人が通ったであろう道』てある事が多い。この山も例に漏れず厳しい山道だった。
最初は頑張りますと意気込んでいた隼だったが、10分もしないうちに私から遅れ始めた。
シャベルを杖代わりにして登るが、それでも痩せ細った彼の筋力と体力ではそれが精一杯だった。
2時間を予定していた道のりを休憩を含めて4時間半かけて登った。
最初は『ありがとうございます』とか『待たせてすいません』と話していたが、今は『すいません』しか発しなくなった。
回し飲みしている2Lのペットボトルのお茶も、そのほとんどを隼が飲んでいた。予定通りだったのでもう1本用意していたので今回は事なきを得た。
「着いたぞ」と大声で叫ぶと私の声が2度木霊した。
リュックを下ろし、社を綺麗にし周囲の掃除をしていると、下の方からカツン、カツンという音が徐々に近づいてきた。
「すいません…すいません…」
呪文の様に繰り返すその言葉は、彼の脳裏から滲み出ている様に思えた。
お茶のボトルを手渡すと「すいません」と言い受け取ると少しむせ込みながら一本目の残りを全て飲み干した。